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今回のジョーシスラーニングでは、株式会社メルカリの木村さんから、「GAS(Google Apps Script)を活用した情シス業務の超・自動化術」をテーマとして情シス業務効率化のベストプラクティスを解説していただきました。
前編では、そもそもGASとは何かといった基本から、GASを使ったメルカリの活用事例をご紹介していただきました。
後編では、ラクスル株式会社 取締役CTOの泉との「自社内製ツールとSaaSの使い分け」に関するディスカッションや、読者からいただいたQ&Aについて解説します。
GASの基礎やメルカリでの具体的な活用事例については、前編の記事『GASの活用方法【メルカリの情シス業務の超・自動化術とは】(前編)』もぜひご覧ください。
<スピーカー>
木村喜生|株式会社メルカリ IT Service Team

<モデレーター>
泉 雄介|ラクスル株式会社 取締役CTO

自社内製ツールとSaaSの使い分けのポイントについて、木村さんと泉でディスカッションしました。
―― 近年ではSaaSの管理ツールが非常に増えていますが、GASのような自社内製ツールとの使い分けのポイントなどはありますか?例えば「こういった場合はGASを使って内製化すべき、こういった場合はSaaSを使うべき」などがあれば、ご意見をお聞かせください。
泉:やはり内製化してしまうと、その後のメンテナンスや引継ぎが大変だったり、業務が属人化したりしますよね。
そういった意味では、SaaSツールを上手くカスタマイズすることによって対応するのか、あるいは「この部分は内製化した方が早いよね」といったように、自社で内製化か外部ツールを利用するかの判断基準を持つことが大切だと感じます。そのあたりの判断基準としては、メルカリではどのように捉えているのでしょうか?
木村さん:仰る通りですね。現在メルカリでは内製化しているツールが主要なところで3つありまして、具体的にいうと「人事評価システム」「管理会計システム」「福利厚生システム」となっています。
なぜこれらのシステムを内製化したかといえば、その判断基準として、「メルカリらしさ」を起点に考えたことが挙げられます。当時は今ほどSaaSプロダクトがなかったというのもありますが、業務を通じてメルカリらしさを体現するために、パッケージではなく自社で内製化することに決めたのです。
特に人事評価などは会社によって評価基準が異なりますし、評価プロセスそのものに自社らしさが如実に現れるので、内製化が適していると感じます。このように、現在でも「メルカリらしさ」に合うのであれば外部から購入し、なければ自分たちで作るといったことをやっています。
―― なるほど。つまり、「自社らしさ」といった目指したい姿が前提としてあって、そこに対して外部のツールを導入することで体現できるのであれば調達するし、なければ多少メンテナンスなどの手間がかかっても内製化するということですね。
そういう意味では、メルカリとしてのビジョンが明確であるからこそ、内製化も上手く行っているんだなと改めて感じますね。
泉:たしかに「人事評価システム」などは企業らしさが色濃く出ますし、運用側も想いが強くなるので、その判断基準は共感できますね。ラクスルでも現在システムをパッケージに移行する動きがありますが、思い返せば元々使っていたシステムは私が魂を込めて設計していたこともあって、正に内製化されたシステムには「自社らしさ」が詰まっていると感じますね!
―― GASを使う際は、どの業務にどのスクリプトが使われているのか、バージョン管理はできているのでしょうか。
木村:実際のところバージョン管理はほとんどできていないですね。本来であれば、GitHubで管理してデプロイして、さらにレビューのプロセスも組むといったことがあって然るべきなのですが、現状としては対応できていません。もちろん、それで良いわけではなくメルカリでもそこを課題として捉えており、現在改善に向けて着手し始めています。
―― レビュー関連の話でいくと、結構インパクトが大きいアクションを取られている印象ですが、そのあたりのテストはどのようにやられているのでしょうか?
木村さん:テストに関しては、レビューをきちんと返すといったことを徹底していますね。GASの内製化で一番インパクトが大きい部分でいうと、「退職処理の自動化」があります。例えば、退職していない人のアカウントが退職処理されるように設定していますが、そこをID管理ツールと派遣社員で対応してもらっています。入社処理に関しては、多少間違っていてもコストが増えるだけですし、GASを使えばチェックを自動化できるため、最終ログイン日を見れば削除できるアカウントかどうかは一目で判断できます。ただしチェック自体は必要なので、そこに関するレビューは必要だと感じています。
―― なるほど。GASを使って最新のデータだけを取得しているのでしょうか?
木村さん:現状では世代管理(最新データだけではなく、その前のバックアップデータも保存すること)は行っていないんです。最新のデータだけをスナップショットとして保存し続けるといった設計にしていまして。例えば、100件のデータが50件に減った場合は、100件のデータを全て削除して、最新の50件分のデータだけを保存するようにしています。
ただし、それによって削除済みの情報がどのタイミングで削除されたかがわからないといった問題も出てきているので、再度作り直すとしたら世代管理も行えるようにしたいですね。
なお、SaaS管理ツールを導入する場合のメリット・デメリットや比較ポイントについては、SaaS管理ツールのメリットとデメリットは?導入時の比較ポイントも解説も参考にしてください。
ここでは、読者からいただいた質問に対する回答を一部紹介します。
―― GASで内製化すると属人化しませんか?
木村さん:そうですね。属人化は避けられません。そのため、GASを使って社内ツールを内製化する場合は、事前にメンバーに対して内製化の意欲を確認した上で、ナレッジシェアを進めていくことが必要です。
というのも、スタートアップで働いている方は成長意欲が高い傾向にあるため、内製化に対して意欲的な方も多いと思いますが、全員がそうしたモチベーションとは限らないですよね。導入時ももちろんですが、例えば、自分が不在のときにも業務が回るように、引継ぎの仕方も含めて工夫が必要だと感じます。
例えば、私のチームでは派遣メンバーも在籍していますが、「このシートのAという部分とBという部分にデータを入れて、Cというボタンを押すだけ。もしエラーが出たらメッセージを読んでXなら◯◯、Yなら△△・・・」といったように、具体的に引き継ぎしています。派遣メンバーがコードのことを詳しく分からなくても、その手順に沿って対応していれば問題ないという状態を作ることで、自動化が実現できています。
もちろん、管理者である私がメルカリを退職したらシステムは動かなくなるわけですが、おそらくその時には費用対効果の見直しが入るはずなので、むしろ業務の見直しも兼ねて良い機会になるのではないかと感じています。
システムは使い続けることが目的ではなく、その時々の業務の実態や課題に合わせて最適化していくことが必要です。昨今のレガシーシステムの問題にもあるように、メンテナンスをしないなら、担当者が退職したと同時に消すくらいがちょうど良いと感じていますね。
―― 色々と具体的なお話ありがとうございます。最後にGASの勉強を始めるのにおすすめの方法はありますか?
木村さん:「Admin SDK:Directory API」などは少し難しいですが、Google Admin系では一番かなと思っています。その他、TwitterやYouTube、Udemyなどで調べれば学習コンテンツが豊富なので、そうしたものを参考にするとよいかと思います。
私も一応、UdemyでGASの講師としてコンテンツを出していますのでぜひご覧いただけると嬉しいです。
―― 今回のように実践的話を聞く機会はなかなか無いので、とても勉強になりました。木村さん、本日はありがとうございました。
今回の「ジョーシス ラーニング」では、メルカリの木村喜生さんをお招きし、メルカリで実践するGASを活用した情シス業務自動化についてお話いただきました。
今回紹介した通り、GASを使うことで社内のあらゆる業務の自動化に着手できます。企業DXやIT活用による生産性向上が叫ばれる中、GASの活用は益々欠かせないものとなるでしょう。
木村さんはUdemyでGASの講師も務めていますので、そちらのコンテンツもぜひ参考にしていただきながら早速GASを活用してみてください。
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