
クレジットカード1枚あれば誰でもクラウドサービスを契約できる時代になり、企業の中で情シス部門が把握していないクラウドが静かに増殖しています。「野良クラウド」と呼ばれるこの現象は、生産性向上の側面を持ちつつも、セキュリティと統制の観点で深刻な課題を生み出しています。
しかし「野良クラウドはシャドーITとどう違うのか」「なぜ野良クラウドが増えるのか」「どう発見・対処すべきか」という疑問を持つ情シス担当者は少なくありません。実際、野良クラウドはSaaSだけでなくIaaS/PaaSも含む幅広い概念で、対策には複数の角度からのアプローチが必要です。
本記事では、野良クラウドの基本的な定義、シャドーITとの違い、発生する4つの理由、放置することで生じるリスク、発見・可視化の方法、対策の進め方、ガバナンスの構築、用語集、よくある質問までを情シス向けに整理します。
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野良クラウドとは、企業の情報システム部門が公式に把握・管理していないクラウドサービスを指す俗称です。「シャドークラウド」「アンマネージドクラウド」とも呼ばれ、現場の従業員や部署が独自に契約・利用しているSaaSやIaaSがこれに該当します。
野良クラウドが発生する根本要因は、SaaS・クラウドサービスの「契約のしやすさ」にあります。クレジットカード1枚あれば即座に契約でき、購買部門や情シスを介さずに利用を開始できます。Productiv社の調査では、平均的な企業が利用するSaaS数は210を超え、その3〜4割が情シスの管理外にあると報告されています。
野良クラウドの典型例には以下のようなものがあります。
これらは生産性向上のために導入された経緯があり、必ずしも悪意はありませんが、ガバナンス上は深刻な問題をはらみます。
野良クラウドという概念が注目され始めたのは、SaaS市場の急成長期である2010年代後半以降です。ハイブリッドワークの定着、生成AIの普及、購買のデジタル化が重なり、情シスのガバナンスが追いつかない状態が常態化しました。今や情シス部門の重要課題のひとつとして位置づけられています。
参考:Productiv — SaaS Management Resources
野良クラウドはシャドーITとよく混同されますが、両者には明確な違いがあります。情シスとして対策を進めるうえで、両者の関係性を整理しておくことが重要です。
シャドーITは「情シスが把握していないIT資産全般」を指す広義の概念です。SaaS、IaaS、デバイス、ソフトウェア、AIサービスなどすべてを含みます。野良クラウドは、シャドーITのうち「クラウドサービス」に絞った概念であり、シャドーITの一部に位置づけられます。
シャドーITはクラウド以外も含み、以下のような領域をカバーします。
野良クラウドは、このうちクラウドサービスに特化しており、近年最も急増している領域として注目されています。
シャドーIT対策はデバイス・ソフト・クラウドを横断する広範な取り組みであるのに対し、野良クラウド対策は「クラウド利用の可視化」と「アカウント・ライセンス管理」に焦点が絞られます。CASBやSaaS統合管理プラットフォームが対策の中核となるのが特徴です。
参考:Cisco
野良クラウドはなぜ増え続けるのでしょうか。表面的には「現場の独走」に見えますが、実際には組織構造に起因する4つの理由があります。
新しいクラウドサービスを正式に導入するには、稟議・セキュリティ審査・契約締結・アカウント発行といったプロセスを経る必要があり、数週間〜数か月かかります。一方、現場的ビジネススピードはこれを待てず、即座に使える野良クラウドへと流れます。
部署単位で予算を持ち、個別にクレジットカード決済できる仕組みが普及した結果、SaaSの購買権限が現場に分散しました。情シスを介さない購買が日常的に発生し、結果として野良クラウドが生まれます。
ハイブリッドワーク・リモートワークが定着し、情シスが現場のIT利用を直接観察する機会が減りました。社内ネットワーク経由のアクセスログだけでは、自宅・カフェからのクラウド利用を把握できなくなっています。
グローバル企業や買収を繰り返した企業では、海外拠点や買収先が独自のIT文化を持ち、本社情シスの管理が及ばないケースがあります。M&A後にIT統合が遅れている企業では、特にこの問題が顕著です。
参考:Forrester — Shadow IT Risk Report
野良クラウドは現場の生産性に貢献する側面もありますが、放置すると重大なリスクを生みます。情シスとして必ず認識しておくべき4つのリスクを整理します。
最も深刻なリスクは情報漏洩です。野良クラウドはセキュリティ標準を満たしていないことがあり、認証強度・暗号化・アクセス制御が不十分なまま機密データが扱われます。アカウントが個人所有のため、退職時に削除されず放置されるリスクも構造的に存在します。
GDPRの処理記録・第三国移転、改正個人情報保護法の外国第三者提供、PCI DSSのカード会員データ所在特定など、規制や基準によっては個人データや重要データの所在把握が求められます。野良クラウドは把握できないデータの所在を生み、コンプライアンス上のリスクとなる可能性があります。監査時に発覚すれば、行政処分や契約解除の対象となるリスクがあります。
野良クラウドの最も即物的なリスクはコストです。同じ機能を持つSaaSを複数部署で別々に契約したり、退職者の未削除アカウントに継続課金したりするケースが頻発します。Gartnerをはじめ複数の調査では、企業のSaaS支出の2〜3割程度が未使用・重複などで非効率な支出になっているという指摘があり、野良クラウドはその主な要因のひとつです。
野良クラウドは、外部攻撃者の侵入経路としても狙われます。設定ミスのS3バケット、放置されたAPIキー、弱いパスワードのアカウントが攻撃の入口となるケースは数多く報告されています。情シスが把握していないため、検知も対応も遅れがちです。
参考:IBM — Cost of a Data Breach Report 2024
野良クラウド対策の第一歩は可視化です。「見えないものは管理できない」原則のもと、以下の3つの手法を組み合わせて全社の野良クラウドを把握します。
クレジットカード決済や経費精算データから、SaaS支出を抽出します。Stripe、Square、各種カード会社の取引履歴をSaaS名で集計することで、情シス未把握のクラウドを発見できます。日本企業ではSaaS購買の多くが経費精算経由で行われるため、特に有効なアプローチです。
CASB(Cloud Access Security Broker)を導入し、ネットワークトラフィックから利用されているクラウドを可視化します。Microsoft Defender for Cloud Apps、Netskope、Zscalerなどが代表的なソリューションで、自動的に野良クラウドを検知できます。
SaaS統合管理プラットフォームは、SSO・SaaS連携・経費データを統合し、利用中の全クラウドを一元的に可視化します。CASBが「ネットワーク経由の通信」から検知するのに対し、SMPは「アカウント・ライセンス・利用状況」から検知するため、補完的に組み合わせると網羅性が高まります。
参考:Microsoft — Cloud Discovery
野良クラウド対策は「禁止」ではなく「管理対象に組み込む」発想で進めるのが現代の主流です。5つのステップで段階的に進めることを推奨します。
参考:NIST SP 800-161 — Supply Chain Risk Management
野良クラウド対策の実効性を高めるためには、適切なツールの組み合わせが重要です。代表的な6製品・カテゴリを紹介します。
Microsoft Defender for Cloud Appsは、Microsoft 365 E5プランに付属するCASBで、31,000超のクラウドアプリを識別する機能を備えます。ネットワークログから野良クラウドを検出し、リスクスコアによる評価まで一気通貫で行えます。
Netskopeは、SSE(Security Service Edge)プラットフォームの代表格で、CASB・SWG・ZTNAを統合提供します。野良クラウドの検出・リスク評価・データ保護を一元的に行え、グローバル企業での導入実績が豊富です。
Zscalerは、クラウド型ネットワークセキュリティの代表企業で、ZIA(インターネット保護)の機能として野良クラウドの可視化を提供します。すべてのトラフィックをクラウド経由で検査することで、リモートワーク環境にも対応できます。
Productivは、SaaS統合管理プラットフォームの代表格で、SaaS支出の可視化・利用状況分析・コスト最適化を提供します。米国企業を中心に導入が進んでおり、エンタープライズ向け機能が充実しています。
Zluriは、SaaS管理に特化したプラットフォームで、シャドーITの検出・ライセンス最適化・自動化機能を提供します。中堅企業向けの価格帯と、幅広いSaaSへの連携対応が特徴です。
ジョーシスは、AI駆動型アイデンティティガバナンスプラットフォームとして、350以上のSaaSと連携し、野良クラウドの検出からアカウント整備、ライセンス最適化までを統合的に支援します。日本市場での導入実績と日本語サポートが特徴で、国内中堅〜大企業の選択肢として注目されています。
参考:Gartner — Magic Quadrant for SaaS Management Platforms
野良クラウド対策で頻出する6つの専門用語を整理します。
CASBは、企業とクラウドサービスの間に位置するセキュリティゲートウェイで、野良クラウドの可視化・制御・データ保護を行います。クラウドアクセスを監視し、ポリシー違反を検知・遮断する機能を提供します。
SSPMは、SaaSのセキュリティ設定を継続的に評価・改善する仕組みです。誤設定・過剰権限・MFA未設定などを自動検出し、野良クラウドのリスクを定量化します。
SMPは、SaaSの可視化・管理・最適化を行うプラットフォームです。野良クラウドの発見からライセンス管理・アカウント整備までを一元的に担い、シャドーIT対策の中核ツールとなります。
サンクションドITは情シスが正式に許可したIT、アンサンクションドITは許可されていないITを指します。野良クラウドはアンサンクションドクラウドに該当します。
CSPMは、IaaS/PaaSのセキュリティ設定を継続評価する仕組みです。AWS・Azure・GCP上の野良クラウド(個人や部署の独自環境)の検出・改善に活用されます。
GRCは、企業のガバナンス・リスク管理・コンプライアンス対応を統合的に行うフレームワークです。野良クラウド対策は、GRCの重要構成要素として位置づけられます。
参考:Gartner — CASB Market Guide
野良クラウド対策の本丸は、検出後のガバナンス運用にあります。可視化はスタート地点に過ぎず、見えるようになった野良クラウドを継続的に管理する仕組みがなければ意味がありません。SaaS統合管理プラットフォームは、この継続運用に適したツールの選択肢です。
これらが同時に解決されることで、野良クラウドが構造的に発生しにくい環境が構築されます。
ジョーシスは、AI駆動型アイデンティティガバナンスプラットフォームとして、350以上のSaaSと連携し、野良クラウドの検出からアカウント整備、ライセンス最適化までを支援します。経費精算データとSSOログを横断分析することで、CASBだけでは見えない野良クラウドを発見できる点が特徴です。国内外700社以上のお客様にご採用いただいているジョーシスのプラットフォームでは、IT工数を最大50%削減し、ITコストを最大75%削減した導入実績があります。
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参考:Josys公式サイト
実務担当者からよく寄せられる質問を4つ取り上げます。
現実的には完全な排除は困難です。新しいクラウドが日々生まれ、現場の業務効率化欲求も尽きることはありません。「ゼロにする」のではなく「許容範囲のリスクに抑える」発想で、可視化・分類・統合管理のサイクルを継続することが重要です。
「禁止」ではなく「ガバナンス対象に組み込む」アプローチが鍵です。許可された範囲で従業員の生産性を最大化し、現場の声を取り入れた審査プロセスを設計することで、両立が可能になります。情シスの役割を「禁止する側」ではなく「ビジネスを支える側」へとシフトすることが必要です。
利用者へのヒアリングです。なぜそのクラウドが必要か、どのデータを扱っているか、代替手段はあるかを把握します。即座に停止すると業務に支障が出るケースが多いため、移行期間を設けつつ、許可SaaSへの統合や正式契約化を進めるのが現実的です。
SaaS数が30を超える企業では、規模に関わらず必要です。Microsoft 365 E5プランに付属するCloud Discoveryから始める、または低価格帯のSaaS統合管理プラットフォームを試すなど、段階的に取り組むことが現実的です。
参考:IPA — 中小企業のサイバーセキュリティ対策ガイドライン
野良クラウドは、SaaSとクラウドが普及した現代企業にとって避けて通れない課題です。情報漏洩・コンプライアンス違反・コスト増加・サードパーティ経由の侵入というリスクを生む一方、適切に管理すれば従業員の生産性向上に貢献します。「禁止」ではなく「ガバナンス対象に組み込む」発想で対策を進めることが、現代の主流アプローチです。
実効性のある野良クラウド対策には、可視化・リスク評価・統合管理・継続モニタリングという4ステップを構造的に運用することが重要です。CASBによるネットワーク監視と、SaaS統合管理プラットフォームによるアカウント・ライセンス管理を組み合わせることで、野良クラウドが管理可能な範囲に収まる仕組みを実現できます。
ジョーシスのようなSaaS統合管理プラットフォームは、野良クラウドの可視化からアカウント統制、コスト最適化までをワンストップで支援します。情シスがガバナンスの守り手として機能しながら、現場の生産性も両立させたい企業にとって、SaaS統合管理は次の標準インフラとなるでしょう。
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