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上場企業、スタートアップなど複数社でアドバイザーを務める長谷川真さんが解説【情報システム部門の立ち上げ方】(後編)

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今回のジョーシス ラーニングでは、「情シスSlack」の運営で知られる長谷川真さん(株式会社サイカ 情報システム マネージャー)に、情報システム部門の立ち上げ方を解説していただきます。

前編では、情報システム部門の立ち上げにあたっての心構えや、立ち上げ時の進め方、注意点などについてのコンテンツをお届けしています。

この後編では、ラクスル取締役CTOを兼務する泉とのディスカッションや、読者からいただいたQ&Aを中心に解説します。


<スピーカー>
長谷川真|株式会社サイカ 情報システム マネージャー

オン・ザ・エッヂ、ライブドアからエンジニアを開始し、外資コンサル、IT広告ベンチャーにて業務改善、社内開発に従事。2020年より株式会社サイカにて情報システムを担当。2019年に「【corp-engr】コーポレートエンジニア x 情シス」というコーポレートエンジニア、情シスのコミュニティの立ち上げ、運営に関わる。コミュニティ運営での知見や人脈を活かし、スタートアップから上場企業まで、複数のIT企画、戦略策定のお手伝いを実施。

<モデレーター>
泉 雄介|ラクスル株式会社 取締役CTO

1979年生まれ 10歳でアメリカに渡り、ニューイングランド音楽院作曲家卒業後、制作プロダクションに作曲家として就職。その後システム開発会社の起業等を経て、2005年モルガン・スタンレー証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)に入社し、主に債券関連商品の取引システム開発に従事。2012年株式会社ディー・エヌ・エーに入社。ゲームプラットフォーム事業を経て、遺伝子検査サービスの立ち上げに携わり、システム開発の技術リードを務める。2015年10月、ラクスル入社。2017年10月に取締役・CTOに就任。

Question1:
情シス部門の立上げ・拡大する時に必要なスキルセットや優先順位とは?

情報システム部門としての目指すビジョン・ゴールはありつつも、そこに向かってどのように優先順位を付けて取り組むべきか。あるいはどういったスキルを身につけるべきかを迷われる方も多いのではないでしょうか。長谷川さんと泉のディスカッションにて深堀りしていきます。

立ち上げ時はマインドセットが重要

長谷川さん
なかなか難しいテーマですね......。やはり、立ち上げ時は抽象度が高い課題に取り組める人がいるのが理想です。もっといえば、その方は「IT畑の方でなくても良い」と思っています。

要は、会社のビジネスを理解していて、IT化に意欲的に取り組んでくれる方が理想だと思っています。そうした方は、たとえITに関する専門性がなかったとしても、外部の力を使いながら事業を前に進められるので、全体最適化を図れるんですよね。

そういう意味でいえば、情報システム部門の立ち上げは、CTOや総務の方が兼任されるケースが多いように感じますね。泉さんは実際どうでしたか?


すごくわかります。確かに立ち上げフェーズから、ITの専門家が入っているケースはほとんど聞かないですね。私自身は、ラクスルでCTOを務めていますが、7年前に入社したころはエンジニアも10名程しかいなくて、プロジェクトマネージャーからヘルプデスクまでなんでもやりました。なかには、「アクセスポイントが壊れた」とか「コピー機が壊れた」といったものまで色々な相談がきました(笑)

長谷川さん
あるあるですね。立ち上げフェーズでは、情シスがあることで「従業員が働きやすくなること」が大事だと思います。なので、まずはヘルプデスクを立ち上げて、そこにホスピタリティが高い人を配置して、「ITは大事だよね」といったマインドセットを社内全体に浸透してもらう形が個人的にはおすすめだと思っています。


確かにそうですね。そもそも自分自身も良い環境で働けたら嬉しいですし、そういう環境をみんなにも提供したい。それに加えて私の場合は、CTOとして会社全体の生産性を求める立場でもあります。そういう意味では一人ひとりの顔を思い浮かべながら、いきいきと働ける環境作りに注力していましたね。


拡大フェーズではゼネラリストが最適

長谷川さん
一方、拡大するときは、また必要な人材が変わると思っています。具体的には、プロジェクトマネージャーやプロダクトマネージャーのような方がいると良いですね。

なぜかというと、経営基盤となるIT活用に取り組む場合、抽象度が高い問題に対してゴールを決めて、ロードマップを敷いて、ユーザーの声を聞く。といった一連のアクションが求められます。

そのプロセスは、一つのプロダクトを作ることであって、もっといえば会社を作ることと同義だと思っています。なので、周囲を巻き込みながらリーダーシップを発揮して、新しいことにガンガンチャレンジしていけるような人がいると、大きく前進すると思います。

とはいえ、情報システム部門の業務は多岐に渡るので、全ての業務に精通するような専門家を雇うことは現実的ではないと思っています。そのため、拡大フェーズでは、それぞれの領域についてある程度は知っているけど専門家レベルではない。といったゼネラリストタイプがいると良いですね。

その上で、より深いテクニカルな部分は外部のコンサル会社などにお願いするといったように、全体を俯瞰した上での最適化が必要だと思っています。

情報システム部門の拡大フェーズにおける複数SaaSプラットフォームの統合やワークフローの簡素化は、効率的な運用には欠かせません。具体的な事例や最新の技術動向は、SaaS統合の未来:複数プラットフォーム間のワークフローを簡素化で詳しく解説しています。


一部で専門性があると次のフェーズにつながりやすい

―― とても参考になります。一方ゼネラリストではありながらも、どこかの領域では専門性や強みを持っていたほうが良いでしょうか。

長谷川さん
仰るとおりですね。やはり一つ強みがあったほうが、そこを起点に色々派生していけると思います。あとは、企業の考えによっても変わってくると思います。例えば、「情報セキュリティに取り組みたい」、「CRM(顧客関係管理)やSFA(営業支援システム)の活用が大事」など、企業の状況もさまざまですよね。

そのときの状況や組織環境によっても事情が異なるので、それに合わせ人員の調達・配置も調整すべきだと思います。そういう意味では、初めから正社員として採用しなくても、とりあえず始めたい分野の専門性がある人を副業人材として採用してみるのもおすすめです。

引用:情シスのキャリアについて考える(吉田航|note)

Question2:
情シス人材の採用が上手い会社と上手くいかない会社の違いとは?

Question1では、情シス部門の立ち上げから成長フェーズでは、一定のITスキルを持つゼネラリストタイプの情シス人材が求められることを解説いただきました。

一方、近年の採用市場では情シス人材の獲得は容易ではありません。そこでQuestion2では、情シス人材の採用が上手くいく会社とそうではない会社の違いについて意見をお伺いしました。

長谷川さん
現在、情シス人材を含めIT業界全体が人材不足ですので、大前提として報酬面は重要です。どの企業も人材の取り合いになっていますので、そもそも条件面で劣っている場合、見向きもされないといったことが現実ですね。もちろん単に報酬が高ければ良いわけではありません。つまるところ「人について考えているかどうか」に尽きると思います。

働き方が多様化している中で、個人が会社で働く理由や将来のキャリアビジョンは人それぞれです。自分のやりたいことと会社の方向性が合っているからこそ、そこで働く理由が出てくるわけです。
それを理解した上で、その人の成長と今の企業のフェーズが合っているか。企業の成長に合わせて新しいことにチャレンジしてくれるかどうか。といったことを突き詰めて考える必要があると感じます。だからこそ、人と情報システムに対する投資を惜しまないという姿勢が重要です。


仰る通りですね。不確実性が高い現代では、誰に何をさせるかを考えるよりも、自社がどんな状態を目指すかを考え、それを発信することが先決だと思います。その上で意欲のある人に信頼して任せるといったことが大切ですね。

当社で工夫していることといえば、社内で情報システム部門を「情シス」と呼ばないことから始めています。仮にエンジニアであっても、会社に提供できるバリューは、いわゆる情シス人材と大きく変わらないですし、むしろ企業が「情シス」と謳うことで、かえって採用の入り口を狭めている可能性があると感じています。

読者からいただいた質問への回答

最後に、読者からいただいた質問に対して、長谷川さんから回答していただきました。ここでは、3つの質問をピックアップしてご紹介します。


ゼロから内製体制を作る際に、外してはならない重要なポイントとは?

―― 今までシステム開発をすべて外部ベンダーに頼っていた事業会社が、ゼロから内製化体制を作る際に、外してはいけない重要なポイントとはどこでしょうか?という質問ですが、いかがでしょうか。

長谷川さん
どの観点から見るかにもよりますが、そもそも内製化を担う人材が社内にいない場合は、当然ながら採用から始める必要があります。その上で、内製化に向けた必要なスキルセットも大事ですね。先述したとおり、プロダクトマネージャーのように、プロダクト全体を設計し管理する人がいると良いと思いますね。

また、既存システムをそのまま使おうとすると間違いなく失敗するので、業務改善の一環でシステムの見直しも同時に行うべきです。その際はECRS(イクルス)というフレームワークが役立ちます。
※ECRS=「Eliminate(排除する)、Combine(結合する)、Rearrange(代替する)、Simplify(単純化する)の4つの頭文字から取った業務改善フレームワーク」


―― なるほど。つまりITの専門性云々というよりは、まずは情報システム部門のビジョンを作り、それを担うコア人材を配置することがポイントということですね。


一人部署でスタートしたが、何から手を付ければ良いか分からない状況の場合の進め方とは?

―― ひとり情シスでありがちだと思うのですが、たとえばIT関連の台帳などもほぼ整備されていない状況の場合は、何から手を付けるべきでしょうか?

長谷川さん
そうですね。まずは台帳を整理するところから始めるべきかなと。要は、正解がないのでまずは気付いたところから手を動かしてみる。そうしている内に、新たな問題点や疑問点などが出てくるので、そこで情報収集をしたりして、アクションを続けると良いと思います。


特に台帳はコスト管理ができるので、お金の出し入れが分かるようになると結構色々なことが見えてきますよね。会社によっては、部門ごとにバラバラになっていることも多いので、それらを一つに統合するだけでも何かしら成果が得られると感じます。

長谷川さん
あとは事業の状況にもよりますね。一例として、情シスに届く相談はセキュリティ上のトラブルが発生したときなどが多いので、そこで原因究明をしたり再発防止策を検討したりするのが、業務としては取り掛かりやすいかなと思います。

平時では、アカウントの棚卸しや、導入中のクラウドサービスの稼働状況などを確認していくことが大切です。それだけでもコストの見直しができますし、経営者にとってコスト管理は特に気になる部分なので、成果としても認められるのではないでしょうか。


ヘルプデスクを組織としてどのような位置づけにしていくべきか?

―― 大半の企業のヘルプデスクは専任者を置かずに、日常業務と兼務で対応しているため、業務負荷の面でも悩みが多いところかと思いますが、組織としてはどのような位置づけにすべきでしょうか。

長谷川さん
前提として企業のIT活用状況によって異なりますが、近年ではヘルプデスクの対応範囲も複雑化・高度化しているので、正社員のキャリアの一つに入れるのも有りだと思います。一方、雑務が多く、人の成長につながらない場合は、必ず外部に出してもらいたいと感じますね。先述したとおり、ヘルプデスク業務が人への投資に繋がっているか?という視点を持つことが大事です。


すごく共感しますね。実際、当社でもそこに行き着くまでに苦労しましたが、やはり正社員として雇うのであれば、その人の成長に責任を持つか持たないかというのは非常に重要な視点だと考えています。責任を取らないのであれば、外注をするといったように経営としての判断が求められますね。


―― 情報システム部門は経営資源であり、それを担う人に惜しまず投資することの大切さを感じました。長谷川さん、本日は貴重なお話しをいただき、ありがとうございました。

情シス担当者が経営層や周囲の社員から信頼を得て、効果的に業務を進めるためのコミュニケーション術については、上司・経営者に信頼される情シスになるためのコミュニケーション術(後編)で実践的なアドバイスを紹介しています。


まとめ

今回の「ジョーシス ラーニング」では、上場企業やスタートアップなど複数社のアドバイザーを務めてきた長谷川さんをお招きし、情報システム部門の立ち上げ方について解説いただきました。
ジョーシスの情シス部門立上げにも取り組む、ラクスルCTO泉とのディスカッションを含め、中身の濃いお話を聞くことができたと思います。

長谷川さんからもお話しいただいたとおり、IT・情報分野は企業に欠かせない経営資源となっています。それに伴い、情報システム部門の役割や業務範囲も広がっており、今や企業にとって情報システム部門は経営基盤を担う部門といっても過言ではありません。
もし情報システム部門がまだ立ち上がっていない、あるいは一人情シスで手元の業務に手一杯になっているといった場合は、今回の内容を少しでも参考にしていただけたら幸いです。

【前編はこちら】

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