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「うちは中堅企業だから大丈夫」という安心感が、最も危うい時代になりました。攻撃者は防御の堅い大企業よりも、セキュリティ体制が整っていない中堅・中小企業を積極的に狙います。ランサムウェアに感染して業務が数週間停止した、取引先の情報が外部に漏洩してビジネスが崩壊寸前になった——そうした事例は、今や規模を問わず現実のものになっています。
「何からやればいいのかわからない」「担当者が自分一人しかいない」「予算も人手も限られている」——情シス担当者の方から、こうした言葉を繰り返し聞いてきました。この記事では、従業員500名前後・情シス少人数体制の中堅企業が、現実的な投資と人員配置で情報セキュリティ体制を構築するための全体像と具体手順を解説します。ゼロから整備するにせよ、既存の取り組みを強化するにせよ、共通して使えるロードマップです。
脅威の質と量が変わりました。「大企業が狙われる時代」という認識は、すでに過去のものです。ここでは、中堅企業が今すぐ動くべき背景と、体制なき状態のリスクを整理します。
警察庁の発表によると、ランサムウェアによる被害件数は高止まりを続けており、製造業・卸売業・医療機関などの中堅企業が被害を受けるケースが目立ちます。攻撃の「自動化」「低コスト化」が進んだことで、規模を問わず無差別に攻撃が行われるようになっています。
2025〜2026年のトレンドとして特に顕著なのが、サプライチェーン攻撃の増加です。セキュリティの手薄な取引先・中堅企業を踏み台として大企業のシステムに侵入するケースが多発しており、中堅企業のセキュリティ問題はもはや自社だけの問題ではありません。取引先全体を巻き込むリスクになっています。
出展:警視庁令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について
攻撃者の視点で整理すると、中堅企業が集中的に狙われる理由が3つ浮かび上がります。
理由1: セキュリティ投資が大企業に比べて少ない
専任のセキュリティ担当者を置けず、情シスがITヘルプデスク兼セキュリティ担当を兼務するケースが多く、技術的・組織的な防御が手薄になりがちです。
理由2: 攻撃者の費用対効果が高い
売上規模が大きく、ランサムウェアで業務停止になれば数百万〜数千万円の身代金を支払う能力があります。防御が薄い分だけ、攻撃の「費用対効果」が高い標的です。
理由3: 大企業のサプライチェーンに組み込まれている
親会社や大手取引先のシステムへの侵入口として踏み台にされます。2026年度から経産省が開始するセキュリティ対策評価制度は、まさにこのリスクへの対応を促すものです。
セキュリティ体制が整っていない状態でインシデントが起きると、「誰が何をすべきか誰も知らない」という最悪の状況が生まれます。対応手順を整備していない組織では、担当者が右往左往するうちに被害が拡大します。バックアップの存在すら確認されていない、ベンダーへの緊急連絡先を誰も知らない——そういったケースは珍しくありません。
個人情報が漏洩した場合は個人情報保護法に基づく報告義務が発生し、対応の不備は取引先からの信頼失墜に直結します。インシデントは「起きたら対処する」ではなく、「起きる前提で備える」ものです。
参考: IPA「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」
対策を打つ前に、まず自社の現状を正確に知ることが必要です。現状把握なしに進めると、優先度を誤って本来対処すべきリスクが放置されます。
情報セキュリティ対策の出発点は「何を守るべきか」を明確にすることです。顧客情報・財務データ・設計書・ソースコードなど、業務上価値のある情報がどこに保存され、誰がアクセスできるのかを一覧化するところから始めます。
棚卸しができたら、ISMSの標準手法でリスクアセスメントを進めます。
中堅企業の場合、最初から完璧を目指す必要はありません。スコープを「最重要情報資産」に絞り、3〜4時間の作業で一次アセスメントを完了させることを目指しましょう。
現状診断のもう一つのアプローチが、ギャップ分析です。理想の状態と現在の状態を比較し、差分を優先度付きで洗い出します。
実用的なフレームワークとして、CIS Controls v8の「実装グループ1(IG1)」があります。中小・中堅企業が最低限実施すべき基本対策リストで、以下のような項目が含まれます。
このリストを「実施済み」「部分実施」「未実施」の3段階で評価するだけで、優先的に取り組むべき領域が見えてきます。
体制構築の骨格を作る際に参考になるのが、経産省の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」です。情シス担当者が経営層への説明材料として使うにも適しています。「経営者が認識すべき3原則」と「CISOに指示すべき重要10項目」を使って、セキュリティ対策の方向性を経営レベルで合意形成するのが効果的なアプローチです。
参考: 経産省「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver3.0」
現状診断が終わったら、実行フェーズに入ります。少人数の情シスでも段階的に進められる7ステップを紹介します。焦らず、一歩ずつ積み上げることが、体制として機能するセキュリティを作る唯一の方法です。
ステップ1: セキュリティ基本方針の策定
経営層の承認を得て、「情報セキュリティ基本方針」を文書化します。A4・1枚程度で「何を守るために、どのような姿勢でセキュリティに取り組むか」を宣言するだけで十分です。これが社内のセキュリティ活動の根拠文書になります。形式より、経営トップの意思として文書に残ることに意味があります。
ステップ2: 責任者・担当者の明確化
誰がセキュリティに責任を持つかを明確にします。IT部長や情報システム担当役員がCISO相当の役割を担い、少人数の中堅企業組織では「責任者(部長クラス)と実務担当者(情シス担当)の2層構造」でスタートするのが現実的です。
ステップ3: リスクの洗い出しと優先度付け
リスクアセスメントを実施し、対策すべき項目を優先度順に整理します。スコアが高いリスクから順に対策計画を立てます。
ステップ4: 基本的な技術対策の実装
EDR(エンドポイント検知・対応)の導入、多要素認証(MFA)の全面適用、VPNや境界装置の脆弱性パッチ適用が三大優先事項です。この3つを実施するだけで、一般的なランサムウェア攻撃の多くを防ぐ効果があります。
EDRは「感染を防ぐ」というより「感染した場合に早期発見して被害拡大を止める」ツールです。完璧な防御は存在しないという前提で、感染後の拡大を最小化することが現代のセキュリティの考え方になっています。
ステップ5: 情報セキュリティポリシーと運用ルールの整備
「パスワード管理規則」「アクセス権限管理規則」「インシデント対応手順書」「クラウド・SaaS利用規則」などを文書化します。最初から完全なものを目指さず、テンプレートを活用して必要最小限から整備しましょう。
ポリシーは策定して終わりではありません。従業員が実際に守れる内容になっているか、ポリシーを守ることで業務効率が著しく下がっていないか、定期的に現場の声を反映して改善していくことが大切です。
ステップ6: 従業員向けセキュリティ教育・訓練
技術的な防御が完璧でも、一人の従業員がフィッシングメールに引っかかるだけで体制が崩壊します。年1回以上の全社セキュリティ研修と、フィッシングメール訓練の定期実施を体制に組み込みます。
研修は「知識の詰め込み」より「行動の変容」を目指して設計することが重要です。「フィッシングメールを見分けるポイント」「不審なリンクを踏んでしまった場合に最初にすべきこと」など、明日の業務で使える具体的な行動指針を提供することが、研修の実効性を高めます。
ステップ7: PDCAサイクルでの継続的改善
年1回以上のリスクアセスメント見直し、インシデント発生時の振り返り(ポストモーテム)、JPCERT/CCやIPAの脅威情報を取り込んだ定期的な見直しが必要です。「作って終わり」ではなく、生きた体制として更新し続けることが大切です。
体制構築でよくある失敗が、「誰が何をするか」が曖昧なまま運用が始まることです。役割を事前に設計することが、インシデント時の混乱を防ぎます。
専任CISOを置ける中堅企業は多くありません。現実的な代替アプローチは2つあります。
一つ目は兼任CISOの設置です。情報システム担当役員やIT部長が実質的にCISOの役割を担います。経営会議でセキュリティ議題を定例化し、予算・人材・優先度判断の権限を持たせることが重要です。
二つ目は外部CISO(vCISO)の活用です。セキュリティコンサルタントをCISOとして月数日稼働させる形で専門知識を外部調達するモデルです。自社の情シスがオペレーション担当、外部vCISOが戦略・判断担当と役割を分ける方法は、予算と人材に制約がある中堅企業に合っています。
CSIRT(コンピュータセキュリティインシデント対応チーム)は、インシデント発生時に対応を指揮する組織です。SOCが「監視・検知」を担うのに対し、CSIRTは「対応・収束」を担います。
中堅企業が採用しているハイブリッドモデルの現実解はこうなります。
インシデント対応は情シスだけでは完結しません。法務(報告義務)、広報(外部発表)、経営企画(事業継続計画)、各事業部門(業務停止時の代替手順)など、複数部門の連携が必要です。
平時から部門横断の「セキュリティ委員会」を設置し、年1回程度の机上訓練(インシデント模擬演習)を実施することで、実際のインシデント発生時の混乱を最小化できます。
「何から始めるか」が明確でないと、予算と人的リソースが分散して成果が出ません。優先すべき技術対策を実装順序とともに整理します。
CIS Controls v8の「IG1(実装グループ1)」を参考に、最優先で実施すべき5項目を示します。
これら5項目を完了させることで、最も一般的な攻撃手法への基本的な防御が整います。
現代の中堅企業では業務の多くがSaaSで行われています。情シスが把握していない野良SaaSが増えるほど、アカウント管理の漏れがセキュリティホールになります。
特に問題になるのが以下の3点です。
シャドーIT: 把握外のSaaSに蓄積された情報のリスクが可視化できません。
退職者アカウントの残存: 退職・異動した従業員のアカウントが削除されずに残っている「孤立アカウント」は、不正アクセスの踏み台になります。
過剰な権限付与: 「とりあえず管理者権限」で付与されたアカウントが多いほど、侵害時の被害が拡大します。最小権限の原則を徹底することが重要です。
テレワークや外部持ち出し端末が増えた環境では、誰がどの端末を使っているかを正確に把握できていない状態のリスクが管理できません。全端末のインベントリ管理(台帳化)とMDM(モバイルデバイス管理)の導入が基本です。MDMを使えば、紛失端末のリモートワイプや、ポリシー違反端末の検知が可能になります。
ここまで紹介してきた体制・技術対策の多くは、SaaS管理とアイデンティティ管理の整備を土台としています。この土台が脆弱なまま、技術対策だけを積み上げても、抜け穴は塞がりません。
情報セキュリティ体制を構築しようとしたとき、最初につまずくのが「守るべき対象が把握できていない」問題です。SaaS時代には各部門が独自に契約するツールが増え続け、IT部門が全容を把握できないまま運用されています。
SaaSの棚卸しができると、以下の効果があります。
SaaS管理とは情報セキュリティ体制の根幹を支えるインフラです。
退職者アカウントが不正アクセスの侵入口として悪用されるケースが増えています。退職日当日に全SaaSのアカウントを削除しようとしても、Excelのリストが更新されていない、担当者が不在だった、マイナーなSaaSが漏れていた——という問題が頻発します。
入退社時のアカウントプロビジョニング・デプロビジョニングを自動化することで、この問題は根本的に解決できます。
ジョーシスは、AI駆動型のSaaS管理プラットフォームとして、情報セキュリティ体制構築の実務を直接支援します。
SaaS利用状況の可視化: 社内で利用されているSaaSを自動で検出・一覧化します。シャドーITの発見にも役立てられます。
入退社時のアカウント自動プロビジョニング/デプロビジョニング: 人事システムと連携し、入退社・異動のタイミングで自動的にアカウントの作成・削除・権限変更を実行します。手作業によるミスと対応漏れをゼロに近づけます。
アクセス権限の一元管理: 誰がどのSaaSにどんな権限でアクセスしているかをダッシュボードで確認できます。定期的なアクセス権限棚卸しの工数を大幅に削減します。
デバイス管理との統合: SaaSとデバイスを同一プラットフォームで管理することで、退職者のアカウントとデバイスを同時に回収する手続きが一つのワークフローで完了します。
IDaaSとはとの連携も含め、アイデンティティ管理を一元化する仕組みを整えることが、中堅企業のセキュリティ体制の現実的な強化策です。
体制が整ってきたら、外部認証の取得や規制対応を視野に入れると、取引先への信頼証明にもなります。
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の国際規格「ISO/IEC 27001」の認証取得は、セキュリティ管理体制が一定水準以上であることを外部に証明する手段です。
取得メリットとして主に挙げられるのは、大手取引先・公共機関との取引条件を満たすこと、社内の体制整備の契機になること、従業員のセキュリティ意識向上に寄与することです。一方でデメリットとして、初回取得に数百万円のコストと6〜12ヶ月の期間がかかります。
大手企業との取引比率が高く、セキュリティ要件を問われるケースが多い中堅企業には検討の価値があります。
ITガバナンスとはを整備する観点からも、ISMSの枠組みは有効です。
2026年度から経産省が開始する「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」は、取引先企業のセキュリティ対策レベルを★1〜★5で評価・公表する仕組みです。★3以上の取得が推奨され、2027年2月〜3月から★3・★4の運用が開始予定です。
中堅企業が大企業との取引を継続・拡大するうえで、この評価制度への対応は中期的に不可避となる可能性が高いです。本記事の7ステップと内容が大きく重なるため、基本方針の策定・リスクアセスメント・技術対策の実装・従業員教育を「記録・文書化しながら」進めることが、評価取得の近道です。
参考: 経産省「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」
「セキュリティ対策にかけられる予算が少ない」という制約は、多くの中堅企業に共通する現実です。限られた予算を最も効果的に使うための考え方を整理します。
セキュリティ投資を「コスト」として捉えると、予算の確保が難しくなります。経営層への説明では「セキュリティ対策をしない場合の被害想定額」と「対策コスト」を比較する視点が有効です。
ランサムウェアによる業務停止が1週間発生した場合の損失(機会損失・復旧コスト・顧客補償・ブランドダメージ)は、中堅企業でも数千万〜数億円規模になる場合があります。これと比較すれば、年間数百万円のセキュリティ投資は合理的な「保険」として捉え直せます。
予算が限られている場合、すべての対策を一度に実施しようとすることは現実的ではありません。費用対効果の観点で優先度を付けると、多要素認証(MFA)の導入は最も費用対効果が高い対策のひとつです。追加コストが比較的小さく、パスワード漏洩を起点にした侵入の多くを防ぐ効果があります。
次にEDRの全端末導入、バックアップの整備と定期検証の順で進めることが、限られた予算での現実的な対策の優先順位です。
自社でセキュリティ機能を構築・運用しようとすると、専門知識を持つ人員が必要で、コストが膨らみます。クラウド型のセキュリティサービスやマネージドSOCを活用することで、専門知識のコストを外部化しながら一定水準の防御を維持できます。
情報セキュリティ体制構築は、一度作れば終わりではなく、脅威の変化に合わせて継続的に進化させるものです。少人数の情シスが成果を出すために重要なのは、「完璧な体制」を目指すことではなく、「優先度の高いリスクから確実に対策を実装し、仕組みとして回す」ことです。
7ステップを振り返ります。
特に技術対策において、SaaS管理とアイデンティティ管理の整備は後回しにされがちですが、退職者アカウントの残存・シャドーITの存在・過剰な権限付与は今日の中堅企業が直面する現実のリスクです。
ジョーシスは、こうした課題を解決するために設計されたSaaS管理プラットフォームです。SaaS利用状況の可視化から入退社時のアカウント自動管理まで、情シス少人数体制の中堅企業が体制整備を進めるための実務支援ツールとして活用いただけます。
ランサムウェア 対策 企業 情シスへの対応も含め、セキュリティ体制の強化を検討されている情シス担当者の方は、ジョーシスの機能をぜひご確認ください。

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