
企業が利用するSaaSの種類は増加の一途をたどり、情報システム部門(情シス)が全容を把握することは難しくなっています。IPA(情報処理推進機構)が発表した「情報セキュリティ10大脅威2026」では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が組織向け脅威の第3位に初めてランクインしました。SaaS環境の複雑化とAI活用の急速な拡大が重なり、従来の手動によるリスク評価では対応が追いつかない状況が生まれています。
本記事では、AIを活用してSaaSのリスクを効率的に分析・可視化する手法と、情シス担当者が実務に落とし込むための具体的なステップを解説します。現状の課題整理から評価チェックリスト、実際の導入効果まで、実務に直接役立てられる情報をお伝えします。
社内で利用するSaaSが数十種類から数百種類規模に増えた現在、情シス担当者が現場で実際に直面している課題を3点に整理します。
従業員が情シスの承認を得ずに導入したSaaSを「シャドーIT」と呼びますが、近年はさらに深刻な問題として「シャドーAI」が顕在化しています。LayerXが公表した「Enterprise GenAI Security Report 2025」によると、AI SaaSアプリケーションへのログインの約90%が、個人アカウントまたはSSO以外の法人アカウント経由で行われていることが判明しています。また、従業員の約18%が生成AIツールに企業の機密情報を入力しているという実態も明らかになりました。
さらに問題なのは、役職が高いほどリスクが大きくなる点です。課長・部長クラスの管理職に限ると、シャドーAIに「顧客データ」や「契約書」を入力する割合は37.5%に達しており、一般社員(18.8%)の約2倍に上ります。職位が高い分、機密情報へのアクセス権限も大きく、万が一の情報漏洩時の被害規模も拡大しやすい傾向にあります。
複数のSaaSをAPI連携や自動化ワークフローで接続する構成が一般的になった結果、一つのサービスで起きたインシデントが他のサービスへ連鎖する「ドミノ型被害」が増加しています。長期間有効なAPIトークンや過剰な権限付与が放置されている環境では、攻撃者が一点を突破するだけで、複数のSaaSのデータに横断的にアクセスできる状態になりかねません。
SaaS間の依存関係は複雑になる一方で、その全容を把握しているIT担当者は多くはありません。特に、各部署が個別に構築した自動化フローについては、情シスが把握できていないケースが多く見られます。
従来、SaaSの導入審査はセキュリティチェックシートをベンダーに送付し、その回答を担当者が目視で確認する手順が一般的でした。しかし、社内のSaaSが数十種類・数百種類規模になった現在、この手法では現実的に対応が難しくなっています。チェックシートへの回答に数週間かかるケースもあり、事業部門の「すぐに使いたい」というニーズに対して情シスがボトルネックになるという問題も生じています。
参考:不安なくSaaSを利用するためのリスク評価方法と最適解 - Assured
AIを活用したSaaSリスク分析とは、人工知能・機械学習の技術を用いてSaaSのリスクを自動的に評価・スコアリングし、情シス担当者の判断を支援する仕組みです。従来の手動評価との違いを以下の表で整理します。
AIによる分析では、各SaaSの公開情報(セキュリティポリシー、コンプライアンス認証、データ処理規約など)を自動収集し、セキュリティスコアやリスクレベル(低・中・高)を自動でスコアリングします。そのSaaSが第三者の生成AIベンダーとデータを共有しているかどうか、顧客データをAIモデルの学習に使用しているかという観点も評価対象に含めることができます。
関連記事:シャドーITリスクを包括的なSaaS管理で軽減 | Josys
AIによるSaaSリスク分析には、複数の技術的アプローチがあります。情シスの実務に即した代表的な4つの手法を解説します。
Google WorkspaceやMicrosoft Azure ADの認証ログをAIが解析し、未承認のSaaSへのアクセスを自動的に検出する手法です。従業員がどのSaaSに、どのアカウントで、どの頻度でアクセスしているかをリアルタイムに把握できます。
この手法の特徴は「継続的な検出」が可能な点です。定期的な棚卸しを待たずに常時監視できるため、新たなSaaSが使われ始めた段階で即座に検知できます。シャドーITが長期間放置されるリスクを大幅に低減します。
各SaaSを評価する際に、公開情報・ベンダー固有の属性・第三者評価データを組み合わせてリスクスコアとリスクレベルを自動算出する手法です。評価項目には以下が含まれます。
Netskope社のCloud Confidence Index(CCI)のような業界標準データベースを活用したシステムでは、14,500種類以上のアプリケーションに対してリスク評価が提供されており、情シスが個別に調査する工数を大幅に削減できます。
参考:もう従来基準では防げない、生成AI搭載SaaSのセキュリティリスク - majisemi
SaaSベンダーのウェブサイトや公開文書から、セキュリティ対策の実施状況を生成AIが自動収集・分析する手法です。従来は担当者が個別にベンダーサイトを確認していた作業が自動化されます。
セキュリティ評価プラットフォーム「Assured」は、クラウドサービス事業者が公開しているセキュリティ対策情報を集約し、特に注意すべき点をAIが自動で分析・抽出する機能を提供しています。3,000件以上のSaaS評価データを蓄積しており、生成AIを搭載したサービスの利用動向やセキュリティ対策の実態を把握するうえで参考になります。
参考:セキュリティ評価プラットフォーム「Assured」 AIによるセキュリティ対策状況分析機能
ユーザーのアクセスパターンをAIが学習し、通常とは異なる行動(大量ダウンロード、深夜のアクセス、普段使わない機能の利用など)を自動検知する手法です。退職予定者の情報持ち出しや、不正アクセスのリスクを早期に発見するために有効です。
ユーザーとアクセス権限の関係をAIが分析し、利用パターンに基づいたアクセスポリシーを自動生成する機能を持つシステムでは、ポリシーに反するアクセスを検知した際に自動でアラートを発出し、場合によってはアクセスを自動遮断することも可能です。
AIを活用したSaaSリスク分析を実務で運用するための具体的な手順を、5つのステップで解説します。
まず、社内で利用されているSaaSをすべて把握することから始めます。認証ログを解析することで、情シスが把握していない未承認のSaaSを含めた全量を可視化します。
ここで重要なのは、「承認済みSaaSの一覧を管理しているから十分」という思い込みを排除することです。実際には、承認済みリストの2〜3倍の種類のSaaSが社内で使われているケースが多く見られます。可視化の際に確認すべき情報は以下の通りです。
全量把握が済んだら、自社のリスク許容度に合わせた評価基準を設定します。ISO 27001のリスクアセスメント手順に基づき、「発生可能性」と「影響度」の2軸でリスクを評価するのが一般的な方法です。
AIによるリスクスコアリングを活用する場合は、スコアの閾値を自社の基準に合わせて設定します。「リスクスコア70以上のSaaSは即座に利用禁止審査を実施」「リスクスコア40〜69は利用条件の整備を求める」といったルールを事前に定めておくことで、担当者が個別判断する工数を削減できます。
参考:ISMSのリスクアセスメントとは?手順と実務ポイント - 認証パートナー
リスクスコアと利用状況を掛け合わせて、対処の優先順位を決めます。リスクが高くても利用者がほぼゼロのSaaSと、リスクはやや高めでも全社で広く使われているSaaSでは、対処の緊急度が異なります。以下のマトリクスが判断基準として有効です。
技術的な対処と並行して、SaaS利用に関するポリシーの整備と従業員への周知が必要です。AIがリスクを検出しても、従業員がリスクの意味を理解していなければ同様の問題が繰り返されます。ポリシーに盛り込むべき主な内容は以下の通りです。
SaaSリスク分析は一度実施して終わりではなく、継続的なモニタリングが不可欠です。AIを活用したシステムでは、新たなSaaSの検出や既存SaaSのリスクスコア変動をリアルタイムで追跡し、担当者に通知する仕組みを構築できます。
実務的な運用としては、月次でのサマリーレポート確認と、四半期ごとの全量棚卸しを組み合わせる方法が現実的です。SaaS利用の変化が速い組織では、週次でのサマリー確認を加えることも検討してください。
Josysは、AIを活用したSaaS管理プラットフォームとして、シャドーITの検出からリスクスコアリング、ポリシー適用の自動化までを一元的に提供しています。
Josysが提供する「SaaS Risk Analyzer」は、検出したすべてのアプリケーションに対してセキュリティスコア(0〜100)とリスクレベル(低・中・高)を自動付与します。評価には公開情報・オープンソースデータ・ベンダー固有の属性が活用されており、以下の観点が含まれます。
情シスはベンダーへの個別問い合わせなしに、各SaaSのリスクプロファイルをダッシュボードで一覧確認できます。担当者のスキルや経験に依存しない、標準化されたリスク評価の仕組みを実現します。
参考:New SaaS Risk Analyzer & Identity Automation | Josys
JosysはGoogle WorkspaceまたはMicrosoft Azureの監査ログを解析し、Josysと連携していない未承認のアプリをすべて自動で検出します。未管理のユーザーやアプリを特定し、セキュリティリスクが高いアプリケーションをアラートで担当者に通知します。
特に、従業員が業務で使用している生成AIツールをすべて特定し、分類・評価した上で適切な対処を自動実施する「シャドーAI対策」機能を搭載しています。情シスが最も把握しにくかった生成AIツールの利用実態を正確に可視化できます。
ユーザーのアクセス権限と実際の利用パターンをAIが分析し、最小権限の原則に基づいたアクセスポリシーを自動生成します。ポリシーに反するアクセスを検知した場合は自動でアラートを発出し、迅速な修正を可能にします。退職・異動・役職変更に伴うアカウント管理の自動化も実現し、権限の放置(幽霊アカウント問題)を解消します。
Josysのリスク分析機能の詳細は、以下の資料でご確認いただけます。
情シスがSaaSを評価する際の主要な確認項目を整理します。AIによる自動評価でも同様の観点がスコアリングに活用されています。自社でのチェックシート運用にもそのまま活用できます。
参考:SaaS調達/選定用 セキュリティチェックシートテンプレート - セキュリティ対策Lab
AIを活用したSaaSリスク分析を導入することで、情シスが得られる具体的な効果を4点に整理します。
従来、1種類のSaaSのセキュリティ評価には担当者が数時間から数日を費やすことがありました。AIによる自動スコアリングを導入することで、業務工数を50%以下に削減した事例があります。評価にかかる時間の短縮は、事業部門のSaaS導入申請に対する回答速度の改善にも直結します。
定期的な手動棚卸しでは見逃しやすかったシャドーITを、認証ログの継続解析によって早期に発見できます。JosysのシャドーIT検出機能を導入した企業では、情シスが把握していなかった未承認SaaSが複数発見され、セキュリティポリシーの見直しにつながった事例が報告されています。
AIによるリアルタイム監視とアラートにより、高リスクなSaaSの利用を検知してから対処するまでのリードタイムを短縮できます。月次・四半期ごとの棚卸しサイクルを待たずに対処できるため、インシデントリスクの低減に貢献します。
リスク分析と並行して、重複SaaSライセンスや未使用ライセンスの特定も可能です。セキュリティ強化とコスト削減を同時に実現できる点は、経営層への説明においても有効な訴求ポイントになります。
Josysの具体的な機能や操作感は、無料デモでご確認いただけます。
AIによるリスクスコアリングは、公開情報とデータベースを基にした客観的な評価であり、担当者による個人差なく一貫した基準で評価できる点が強みです。ただし、スコアはあくまで参考指標であり、最終的な承認判断は情シス担当者が行う必要があります。自社の業務特性やデータの機密度に応じてスコアの解釈を調整することが重要です。
AIによる自動評価とセキュリティチェックシートは補完関係にあります。AIスコアリングでリスクが高いと判定されたSaaSに対して重点的にチェックシートを要求するなど、優先度付けにAIを活用することで、全体の運用効率を高められます。
生成AIツールの評価では、通常のSaaSの評価項目に加えて「顧客データをAIモデルの学習に使用するか」「企業向けプランでのデータ分離の有無」「ログイン情報の入力制限があるか」を重点的に確認します。JosysのSaaS Risk Analyzerでは、各アプリの生成AIベンダーへのデータ共有状況を自動で評価する機能を備えています。
AIによるSaaSリスク分析ツールは、専任のセキュリティエンジニアがいない少人数の情シスチームでも活用できるように設計されています。自動スコアリングとアラート機能により、担当者が全SaaSを個別確認する必要がなく、対応が必要な重要案件に集中できます。
本記事では、AIを活用したSaaSリスク分析の手法・手順・導入効果について解説しました。要点を以下に整理します。
SaaSリスク分析の第一歩として、まず社内で利用されているSaaSの全量を可視化することをお勧めします。Josysでは、認証ログの解析によるシャドーIT検出から、AIを活用したリスクスコアリングまでを一つのプラットフォームで提供しています。
Sign-up for a 14-day free trial and transform your IT operations.
