
クラウドサービスとSaaSの利用拡大により、IT予算の支出構造は大きく変わりました。サーバーや業務システムを購入する一括投資型から、月額・年額のサブスクリプション型に移行し、利用量に応じてコストが変動する環境が常態化しています。一方で、利用が拡大するほどコストも比例的に膨らみ、予算を大幅に上回る請求が発生することがあります。
こうした状況に対応するためのフレームワークがFinOpsです。クラウドコストの可視化、責任分担の明確化、最適化サイクルの定着を目的とし、IT、財務、事業部門が連携して継続的にコストを管理する考え方として、グローバルで急速に普及しています。
FinOpsの定義、基本原則、組織への導入ステップ、SaaS管理との関係、実践フレームワーク、つまずきやすいポイントを解説します。情シス部門、経理・財務部門、IT予算責任者、SaaS管理プロジェクトのリーダーを主な対象とした内容です。
FinOpsは「Finance」と「DevOps」を組み合わせた造語で、クラウドサービスとSaaSのコストを継続的に最適化するための運用フレームワークです。FinOps Foundationによる正式な定義では「クラウドの財務的責任の文化的実践であり、エンジニアリング、財務、ビジネスの各チームがデータに基づくコスト判断を行い、ビジネス価値を最大化する」とされています。
従来のIT予算管理では、年次予算策定→月次レビュー→年度末調整というサイクルが基本でした。しかし、クラウド・SaaSの利用量は日次・週次で変動し、新規契約も現場主導で増えていきます。年次予算の枠組みでは現実の支出に追従できず、コストが膨張するか、過剰な抑制で業務が止まるかのいずれかに陥ります。
FinOpsは、この問題を構造的に解決するため、次の3つの要素を組み合わせます。
FinOpsの起源は、2019年に立ち上がったFinOps Foundation(2020年にLinux Foundationに参画)で、AWS、Microsoft、Google、Adobeなど大手企業が参画して標準化を進めています。日本でも2023年以降、エンタープライズ企業を中心に導入が進み、SMBにも広がりつつあります。
参考:FinOps Framework|FinOps Foundation
FinOps Foundationが定義する6つの基本原則は、FinOpsを組織に根付かせる上での指針となります。これらを共通理解とすることで、IT・財務・事業部門の対話が円滑に進みます。
エンジニアリング、財務、調達、ビジネスの各チームが共通言語と共通ゴールでクラウドコストを管理します。情シス部門だけが責任を負うのではなく、利用部門も含めた組織横断の取り組みとして位置付けます。
コスト削減自体が目的ではなく、投資に見合うビジネス価値が得られているかが判断基準となります。安価でも効果が出ないSaaSは見直し、高価でも価値の大きい投資は維持・拡大する判断軸を持ちます。
利用部門、エンジニア、管理者がそれぞれの立場でコスト意識を持ち、利用状況の透明性を確保します。情シスや経理だけが管理する形態から、全社的な責任分担への転換です。
月次・年次の事後集計ではなく、日次・週次のダッシュボードで動的にコストを把握し、即時の判断につなげます。ツールによる自動可視化が前提条件となります。
FinOpsの専任チーム(CCoE: Cloud Center of Excellenceと呼ばれることもあります)が、ベストプラクティスの定義、ツール選定、トレーニング、横断調整を担います。中央集権と分権のハイブリッド型運用が標準です。
リザーブドインスタンス、サブスクリプション割引、ボリュームディスカウント、休止状態の活用といった、クラウドの可変コスト構造を最大限に活用します。固定費発想ではコスト最適化の余地を見落とします。
参考:FinOps Principles|FinOps Foundation
FinOpsの実践フェーズは、Inform(可視化)、Optimize(最適化)、Operate(運用)の3段階で構成されます。各フェーズは順次進めるのではなく、継続的に循環させることで効果を発揮します。
クラウドとSaaSの支出を可視化し、誰が・何に・いくら使っているかを把握する段階です。コスト管理プラットフォーム、SaaS管理プラットフォーム、財務会計システムを連携させ、部門別、プロジェクト別、SaaS別、用途別にコストを分解します。タグやコストセンターによる分類体系の整備が、この段階の鍵となります。
可視化したデータを基に、無駄を特定し削減する段階です。未使用ライセンスの整理、機能重複の統合、プランダウン、ベンダー交渉、リザーブドインスタンスの活用など、複数の最適化アクションを並行します。期待効果と実行コストでアクションを優先順位付けします。
最適化を一過性の活動ではなく、継続的な運用に組み込む段階です。新規契約時の承認フロー、四半期レビュー、KPIモニタリング、ベストプラクティスの社内共有を仕組み化します。FinOpsの成熟度(Crawl/Walk/Run)に応じて運用の高度化を進めます。
Operateフェーズで得た知見をInformフェーズに反映させ、可視化の対象範囲、ダッシュボードの粒度、分析手法を継続的に改善します。サイクルを回すほど、組織のFinOps成熟度が上がり、コスト管理の精度が向上します。
参考:FinOps Phases|FinOps Foundation
FinOpsを定着させるには、明確な役割分担と責任範囲の定義が必要です。代表的な組織体制を整理します。
専任のFinOpsエンジニア、コストアナリスト、調達担当者で構成される中央チームです。3〜10名規模が目安となる場合があり、ツール選定、コスト分析、社内ベストプラクティスの策定、トレーニング提供、横断調整を担当します。CFO直下、CIO配下、もしくは独立組織として配置されます。
クラウド・SaaSを実際に使うエンジニアやプロダクトチームが、利用量とコストの責任を持ちます。リソース最適化、不要なインスタンスの停止、効率的なアーキテクチャ設計を実施します。コスト意識を持ったエンジニアリング文化の醸成が、FinOps成功の鍵となります。
予算策定、月次決算、ベンダー支払いを担当しながら、FinOpsデータを財務報告に統合します。クラウド・SaaSコストの会計処理、税務処理、固定資産化判断などを支援します。
実際にSaaSを利用する事業部門が、利用状況の透明化、業務効率化の効果測定、コスト責任の分担を担います。中央チームと連携しながら、業務に直結する判断を主導します。
経営層は、FinOpsの戦略方向、予算配分、組織体制を決定します。CIOとCFOがFinOpsのスポンサーとなり、組織横断の取り組みを推進する後ろ盾となります。
参考:FinOps Personas|FinOps Foundation
FinOpsはクラウドインフラ(AWS、Azure、GCP)を中心に発展しましたが、近年はSaaSも対象に含めた「SaaS FinOps」の概念が広がっています。SaaS管理プラットフォーム(SMP)は、SaaS FinOpsを実践する上での中核ツールです。
クラウドインフラだけでなく、SaaSも年間数百万円〜数億円規模の支出となる組織が増えています。SaaSはユーザー単位の課金が中心で、退職者・休眠ユーザー・機能重複といった独自の最適化論点があります。インフラ向けFinOpsツールではこれらを把握できず、SMPによる専門的な可視化が必要となります。
SMPは、契約しているSaaSの一覧化、ライセンス利用率の自動計算、未使用アカウントの検出、退職者残存ライセンスの可視化、機能重複の発見、コスト分析ダッシュボードを提供します。350以上のSaaSアプリと連携することで、Excel管理から脱却した継続的な可視化が実現します。
SMPで取得したSaaSコストデータを、FinOpsプラットフォーム(CloudHealth、Apptio、Cloudability等)に統合することで、クラウドインフラとSaaSを統合した総コスト管理が可能になります。連携によりIT支出の全体像が見え、最適化判断の精度が高まります。
SMPによるSaaS FinOpsを実践することで、年間SaaS支出の削減事例が多く報告されています。退職者残存ライセンスの自動削除、未使用ライセンスの整理、機能重複の統合だけで、規模により数百万円〜数千万円のコスト削減につながる事例があります。
参考:SaaS Management Best Practices|FinOps Foundation
FinOpsを組織に導入するためのステップを5段階で整理します。一気に導入するのではなく、段階的に成熟度を上げる進め方が現実的です。
組織のクラウド・SaaS支出、責任体制、ツール環境、運用フローを棚卸しします。FinOps Foundationが提供する成熟度評価(Crawl/Walk/Run)を使い、自社の現在地を把握します。
中央チームの責任者、メンバー、レポートライン、予算を決定します。組織規模に応じて体制を整え、CIO/CFOのスポンサーシップを得て活動を開始します。
クラウドコスト管理ツール、SaaS管理プラットフォーム、ダッシュボードを整備します。タグ体系、コストセンター、レポート粒度を設計し、組織横断で共通言語となるデータ基盤を構築します。
可視化したデータを基に、優先度の高い最適化アクションを実行します。クラウドではリザーブドインスタンス、休止状態の活用、SaaSでは未使用ライセンス整理、プラン最適化、機能重複統合などです。3〜6カ月で初期の成果を出すことが、組織内の支持を得る鍵となります。
最適化を一過性で終わらせず、四半期レビュー、新規契約承認フロー、KPIダッシュボードを通じて運用に組み込みます。Crawl→Walk→Runと成熟度を上げながら、自動化と分権化を進めていきます。
参考:FinOps Maturity Model|FinOps Foundation
FinOpsと社内コミュニケーションで頻出する用語を整理します。
SaaS FinOpsの実践には、SaaSコストの自動可視化と最適化を支える専用基盤が必要です。Josysは、SaaS、デバイス、アカウントを統合管理するAI駆動型アイデンティティガバナンスプラットフォームで、契約しているSaaSの一覧、ライセンス利用率、未使用アカウント、機能重複、コスト分析を自動で可視化します。
国内外700社以上の導入実績があり、事例によっては、IT工数を最大50%、ITコストを最大75%削減した報告もあります。350以上のSaaSアプリと連携し、人事システム、IDaaS、MDMとの統合運用で、SaaS FinOpsに必要な可視化と自動化を一気通貫で実現します。経営層への報告ダッシュボード、四半期レビューの定型化、新規契約承認フローを支援する機能も備えています。
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FinOpsの導入と運用でよく寄せられる質問にお答えします。
当初はクラウドインフラ(AWS、Azure、GCP)が中心でしたが、現在はSaaSもFinOpsの対象に含まれます。SaaS FinOpsは独立した分野として急成長しており、SaaS管理プラットフォームを中心に専門ツールが整備されています。
組織の現状とFinOps成熟度により異なりますが、初年度に一定のコスト削減が出るケースが多く、継続的な運用により効果が積み上がる事例も報告されています。可視化が進んでいない組織ほど、初期の最適化効果が大きく出る傾向があります。
中小企業でもFinOpsの考え方は有効です。専任チームを設けるのが難しい場合でも、SaaS管理プラットフォームによる可視化と、四半期レビューの仕組み化を進めるだけで、コスト最適化の効果が出ます。組織規模に応じて、簡素化したFinOpsの実践が現実的です。
組織規模によって必要な人員は異なります。中小企業では情シス兼務から始め、段階的に体制を強化する進め方が現実的です。
クラウド・SaaSの支出可視化から始めます。経理部門の請求書、クレジットカード明細、契約書を集めて棚卸しし、Excelででも一覧化することが起点です。並行して、SaaS管理プラットフォームの導入を検討し、自動化基盤を整えていきます。
FinOpsは、クラウド・SaaS時代のIT予算管理を支える必須フレームワークとなりました。ここまで紹介した6原則、3フェーズサイクル、5ステップの導入プロセスを起点に、自社のIT支出の可視化と最適化を進めてください。SaaSとデバイス、アカウントを横断管理したい中堅・準大企業の情シス部門には、Josysが現実的な選択肢となります。
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