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SaaSを数十種類抱えるようになった中堅企業では、ID管理が静かに限界を迎えます。入社のたびに数十種類分のアカウントを手作業でつくり、退職者の削除を見落として、辞めた社員がSaaSにログインできる状態が数カ月続く。こうした話は、もはや珍しいものではありません。
この課題を解くのがIDaaSです。ところが、いざ導入を検討すると次の壁にぶつかります。製品の数が多いうえに、料金体系も連携できるSaaSの数も製品ごとにバラバラで、自社に合う1本を選び抜くのが難しいのです。Entra IDで足りるのか、Oktaや国産製品まで見るべきか。判断材料がそろわないまま比較表を眺めても、迷いはかえって深まります。
IDaaS比較で押さえるべき7つの評価軸、主要9製品の機能と料金、規模と既存環境に応じた選定パターン、そして導入から運用定着までの手順を整理します。従業員300〜2,000名規模の中堅企業で、情シスやIT部門のマネジメント、セキュリティ運用を担う方を想定した内容です。
IDaaS選定の精度は、製品を比べ始める前に自社の前提をどこまで言語化できるかで決まります。同じ製品でも、既存の認証基盤や利用中のSaaSの種類数、認証要件によって最適解は変わります。要件が曖昧なまま比較表を眺めても、判断の軸そのものが定まりません。
先に固めておきたい前提条件は、次のとおりです。
これらを詰めておくと、候補は自然と3〜5製品に絞られ、PoC(試験導入)の効率も上がります。逆に要件定義を飛ばして導入を急ぐと、連携できないSaaSが後から見つかったり、想定外の運用負荷で再選定に追い込まれたりします。初期の要件整理には1カ月程度を見込んでおくと安全です。
参考記事:IDaaS/SSO比較2026 中小企業|情シス365
参考記事:自社に合ったIDaaS選定のポイント|Gluegent
効率よく比較を進める鍵は、評価軸を先に決めておくことです。以下の7つを自社の優先順位で重み付けすれば、製品ごとの違いが同じ物差しで見えてきます。
連携できるSaaSの数と方式が、初期設定の工数を大きく左右します。連携方式にはSAML 2.0、OpenID Connect、SCIMなどがあり、どの方式に対応しているかで設定の手間と運用の難しさが変わります。事前構築済みの連携テンプレートが豊富な製品ほど、つなぎ込みの負担は軽くなります。
MFAの認証方式をどこまで選べるかを確認します。認証器アプリのワンタイムパスワード、SMS、生体認証に加え、フィッシング耐性の高いパスキー(FIDO2)まで対応しているかが分かれ目です。職種や働き方に応じて方式を使い分けられると、現場の負担を抑えながらセキュリティを保てます。
デバイスの状態、アクセス元のIPアドレスや国、時間帯を条件に、アクセスを動的に許可・拒否できるかを見ます。ここは製品やプランによって提供範囲が大きく異なる部分です。たとえばMicrosoft Entra IDでは、条件付きアクセスはP1以上で使え、リスクベースの高度な制御はP2で提供されます。必要な制御がどのプランに含まれるかは、必ず確認してください。
すでに使っている基盤との相性が、日々の運用コストを決めます。Microsoft 365中心ならEntra ID、Google WorkspaceならGoogle Cloud Identityが親和性で一歩リードします。オンプレミスのActive Directoryが残る環境なら、AD連携や共存に強い製品を選ばないと、移行途中で運用が二重化しかねません。
入社・異動・退職に合わせて、アカウントを自動で作成・変更・削除できるかを確認します。SCIMで人事システムとつながれば、入退社対応の工数を大幅に減らせます。あわせて、IDの追加・変更・削除や権限変更が日常的にどれだけ手間なくできるかという運用のしやすさも見ておきたいところです。
認証基盤は業務の玄関口になるため、止まったときの影響が全社に及びます。障害時の情報開示や復旧対応、問い合わせ窓口の対応時間、SLAの水準を確認しておきましょう。稼働率の実績や運用年数、日本語サポートの手厚さは、専任要員の少ない中堅企業ほど重視すべき軸です。
ユーザー単価に人数を掛けた月額だけで判断すると、後で誤算が生じます。初期設定費、上位機能のオプション費、サポート費まで含めた3年間のTCOで比べるのが原則です。基本無料の製品もあれば、条件付きアクセスが上位プラン限定の製品もあり、必要機能がどのプランに含まれるかで実質コストは大きく動きます。
ここからは、中堅企業の候補になりやすい9製品の特徴を整理します。料金はユーザー単価(月額)の目安です。プラン改定が頻繁なため、契約前には各社の最新情報を確認してください。
Microsoft 365やAzureを使う企業にとって、追加コストを抑えて始められる有力候補です。M365 Business PremiumにはEntra ID P1が標準で付くため、対象プランを契約済みなら追加費用ゼロでSSOと条件付きアクセスを導入できます。料金の目安はP1が約900円、リスクベース保護を含むP2が約1,500円です。WindowsやMicrosoft環境との統合が強みで、多くの中堅企業がまず机上に載せる製品といえます。
グローバルでデファクトスタンダードに近い存在で、Okta Integration Networkには8,000種類以上の事前構築済み統合がそろいます。マルチクラウド・マルチSaaS環境の高度なID管理に強く、Mac環境への対応も手厚い点が支持されています。料金はSSOとMFAを組み合わせた構成で約800〜1,500円が目安で、Adaptive MFAによる適応型の条件付きアクセスに対応します。連携先が多く、数年先の拡張まで見込む中堅企業に向きます。
現在はOne Identityの傘下で提供されるIDaaSで、コストを抑えたい中堅企業の受け皿になります。料金はAdvancedプランで約400円からと、主要製品のなかでは経済的です。6,000以上のアプリ連携を備え、SmartFactorと呼ばれる機械学習ベースのMFAを持ちます。M365を契約しておらずEntra ID P1が使えない環境で、価格を最優先したい場合に検討する価値があります。
国内で広く導入されている国産のクラウドセキュリティ基盤で、SSOとメールセキュリティを一体で扱える点が持ち味です。Identity・DLP・Cybersecurityの3つのEditionで構成され、連携するSaaSの数では課金しない料金体系を採ります。対応サービスは463以上で、2011年の販売開始から2,400社以上に導入されてきました(2023年3月末時点)。SSOの整備と同時に、メール経由の情報漏洩対策まで進めたい企業に合います。
ゼロトラストを前提にした、SSO・アクセス制限・認証強化の国産IDaaSです。2008年のサービス開始から15年以上の運用実績を持ち、ASPサービスとして稼働率99.99%以上を維持してきました。利用者は世界で70万を超え(2023年3月末時点)、パスキー(FIDO2)によるパスワードレス認証にも対応します。安定稼働と厳格なアクセス制御を両立させたい中堅企業に向く製品です。
基本プランを無料で使える国産IDaaSで、費用対効果を重視する企業に選ばれています。基本プランでもIDaaSの主要機能をアカウント数・アプリ数の上限なしで使え、セキュリティや利便性を高める機能は有料オプションとして追加できます。フォームベース認証・SAML認証・Basic認証の3方式に対応し、Active DirectoryやMicrosoft Entra IDとも連携できます。まず無料で試し、必要に応じて広げていく進め方が取りやすい製品です。
Google Workspaceを軸に運用している企業向けの選択肢です。Premiumプランの料金目安は約1,020円で、Context-Aware Accessによりデバイスやアクセス状況に応じた制御ができます。Googleのエコシステムとの連携がなめらかで、ChromeOS端末やエンドポイントの管理まで一元化できます。Google Workspaceが全社標準になっている中堅企業では、まず第一候補に挙がります。
オンプレミスのActive Directoryとの共存・連携に強みを持つ国産製品です。クラウドへの全面移行がまだ難しく、社内システムがオンプレに残る環境でも、段階的にSSOの範囲を広げられます。ハイブリッドな構成を保ちながらID管理を束ねたい日本企業にとって、現実的な選択肢として評価されています。
国内大手の通信系が提供するIDaaSで、日本語による手厚いサポート体制が特徴です。セキュリティ要件の厳しい金融・医療・官公庁系での採用実績があり、通信事業者ならではの運用の安定感が強みになります。国内実績とサポートを重視する中堅企業に向く製品です。
参考記事:Microsoft Entra 製品情報
参考記事:HENNGE One 価格とプラン
参考記事:CloudGate UNO サービス料金
参考記事:GMOトラスト・ログイン 料金・機能
参考記事:IIJ IDサービス
参考記事:IDaaS比較9選|ITトレンド
中堅企業とひとくくりに言っても、既存環境と規模しだいで最適解は変わります。代表的なパターンを押さえておくと、自社のフェーズに合う候補を素早く絞れます。
M365を全社に入れているなら、Entra IDが第一候補です。Business PremiumにはEntra ID P1が付くため、追加費用を抑えながらSSOと条件付きアクセスを始められます。リスクベースの高度な制御が必要になった段階でP2に上げる、という段階的な進め方が現実的でしょう。
Google Workspaceが標準の組織では、Google Cloud Identityが親和性で優位に立ちます。Context-Aware Accessでアクセスを制御し、ChromeOS端末の管理まで一元化できます。外部SaaSとの連携を幅広く求めるなら、Oktaを併用して連携の幅を補う組み方も有効です。
社内システムやレガシーアプリがオンプレミスに残る環境なら、Active Directoryとの共存・連携に強い製品が向きます。Gluegent Gateのような国産製品や、AD連携に対応するGMOトラスト・ログインが候補になります。クラウドへ段階的に移りながら、SSOの範囲を広げていく運用が取りやすくなります。
規制業種や、社内の運用要員が限られる企業では、日本語サポートと国内実績を軸に選ぶと安心感があります。HENNGE One、CloudGate UNO、IIJ IDサービスが候補で、メールセキュリティやゼロトラスト対応といった各製品の強みで絞り込みます。
まずは低コストで始めたいなら、基本無料のGMOトラスト・ログインや、Advancedプランが安価なOneLoginが候補です。利用頻度の高いSaaSからSSOを設定し、効果を確かめながらオプションや対象範囲を段階的に広げていくと、投資判断もしやすくなります。
参考記事:IDaaS製品比較|ITreview
IDaaSは選んで終わりではありません。導入後の運用設計こそが成果を分けます。ここでは導入プロセスを5つのステップに分け、定着までの道筋を描きます。
はじめに、利用中の全SaaSとシステムを棚卸しし、連携対象と優先順位を決めます。SAMLやOIDCに対応するSaaSと、対応しない旧システムを仕分けるのが第一歩です。この段階でSaaS管理基盤を使えば、シャドーITを含む利用実態まで漏れなく洗い出せます。
選んだ製品を一部部門で30〜60日ほど試験運用します。実際のSSO連携、MFAの挙動、条件付きアクセスの動きを検証し、想定外の挙動や連携できないSaaSをこの段階であぶり出します。ここでの検証が、本番展開のつまずきを大きく減らします。
部門単位で順に展開し、問い合わせ窓口とマニュアルを整えます。展開と同時にMFAを必須にすれば、パスワードだけでの不正アクセスを防げます。展開直後は問い合わせが集中しがちなので、情シスの人員を一時的に厚くしておくと安心です。
人事システムとIDaaSをSCIMでつなぎ、入社・異動・退職に応じたアカウント処理を自動化します。退職日にアカウントが自動で消えるため、削除漏れという典型的なセキュリティリスクをしくみで断てます。手作業の工数を減らす効果も大きい工程です。
導入後は、アクセス権の棚卸しとログ監査を定期的に回します。過剰な権限や使われていない孤立アカウントを洗い出し、ポリシーを見直し続けることで、監査対応の負担を平準化できます。新しく増えたSaaSの取り込みも、同じサイクルに乗せていきます。
IDaaSを入れても、SaaS管理の課題がすべて片づくわけではありません。IDaaSが認証とアクセス制御を担う一方で、どのSaaSが使われ、ライセンスが何本消費され、シャドーITが潜んでいないかを把握して最適化する役割は、別の基盤が受け持ちます。この2つがそろって、はじめて統制が一気通貫になります。
ジョーシス(Josys)は、SaaS・デバイス・アカウントを束ねて管理するAI駆動型アイデンティティガバナンスプラットフォームです。IDaaSそのものではなく、IDaaSと併用してSaaSポートフォリオの可視化とコスト最適化を担う管理基盤として働きます。国内外で1,000社以上に導入され、350以上のSaaSアプリと連携します(2026年時点)。事例によってはIT工数を最大50%、ITコストを最大75%削減したケースもありますが、効果は個社の状況により異なります。
役割分担で言えば、IDaaSが認証と権限の深さを、ジョーシスがSaaSポートフォリオの広さを受け持ちます。両者が噛み合うことで、入退社プロセスの自動化とシャドーITの排除を同時に進められます。IDaaSの導入と並行してジョーシスを採り入れる中堅企業も増えています。
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IDaaSの比較と選定でよく寄せられる質問に答えます。
Microsoft 365中心で、連携先が主要SaaSに収まるなら、Entra ID P1で多くの要件を満たせます。ただし連携したいSaaSが幅広い場合や、Mac環境が多い場合は、Oktaのように連携数の多い製品と比べてみる価値があります。まずは自社の対象SaaSを棚卸ししてから判断してください。
日本語サポートや細やかな要望対応、オンプレADとの連携を重視するなら、国産(HENNGE One、CloudGate UNO、GMOトラスト・ログイン、Gluegent Gate、IIJ IDサービス)が優位です。連携数の多さや新機能のスピードを求めるなら、海外製(Entra ID、Okta、OneLogin、Google Cloud Identity)が向きます。海外拠点を抱える組織では、海外製への傾きが強まります。
ユーザー単価は月額400〜1,500円ほどが目安で、GMOトラスト・ログインのように基本無料の製品もあります。実際のコストは、条件付きアクセスなどの必要機能がどのプランに含まれるか、初期設定費やサポート費まで含めた3年間のTCOで見るのが正確です。
SSOは1回の認証で複数サービスに入れる単一機能で、IDaaSはそのSSOにMFA・SCIMプロビジョニング・アクセス管理・ログ監査を束ねた基盤です。SSO単体では、入退社の自動化やログ監査までは手に入りません。概念の整理は、IDaaSそのものを解説した記事もあわせて確認すると理解が深まります。
要件定義が甘いまま製品を決め、PoCを飛ばすパターンが最も多い失敗です。連携できないSaaSが後から見つかったり、条件付きアクセスが契約プランに含まれず追加コストが発生したりします。前提整理、PoC、社員への周知。この3点を省かないことが、成功の前提になります。
IDaaS比較の王道は、自社の前提条件を整理し、評価軸を決めてから、PoCで実環境の動きを確かめる流れです。中堅企業なら、既存環境がMicrosoft 365中心ならEntra ID、Google Workspace中心ならGoogle Cloud Identity、オンプレADが残るなら国産製品、というように既存基盤を起点に候補を絞ると、判断が一気に早まります。
まずは利用中のSaaSを棚卸しし、連携方式と必要機能を書き出すことから始めてください。SaaSとアカウントを横断で管理したい中堅企業の情シスにとっては、IDaaSとSaaS管理基盤を組み合わせる設計が、現実的な最適解になります。
関連記事:IDaaSとは?SSO・SCIM・ゼロトラストとの関係を情シス向けに完全解説
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