
シャドーITとは、情報システム部門(情シス)の承認を得ないまま、従業員が業務に持ち込むデバイス・クラウドサービス・アプリケーションの総称です。コストリスクといえば情報漏洩による損害賠償が注目されがちですが、実際には複数の層にまたがる損失が企業を静かに蝕んでいます。
シャドーITに伴うコストの多くは、通常の経費管理の外側にある点が問題です。正規承認されたシステム費用は予算に計上されますが、シャドーITによる支出は個人の経費精算に埋没したり、少額のクレジットカード決済として見過ごされたりします。情シスが気づいたときには、すでに複数月分の費用が積み上がっていることが珍しくありません。
2024年のassured調査によると、従業員数1,000名以上の企業の半数以上(52.3%)が100種類以上のクラウドサービスを利用しており、シャドーIT対策まで実施できている企業は約3割にとどまります。大企業の7割近くがコスト管理の死角を抱えているという現実は、シャドーITを「他社の問題」として片付けられない状況を示しています。
参考:2024年最新シャドーIT対策実態調査レポート | assured
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シャドーITのコストは、直接的な金銭損失・対応工数(間接コスト)・長期的なブランド毀損という3つのレイヤーに整理できます。それぞれに固有の性質があり、どれか一つを対処すれば済むという問題ではありません。順番に見ていきます。
直接的な金銭損失として最初に挙げられるのが、ライセンスの重複契約と未使用ライセンスの放置です。部門Aがすでに全社契約しているツールを部門Bが独自に契約してしまう事態は、SaaSの調達がセルフサービス化した現代では日常的に起きています。
Productivの調査によれば、企業が保有するSaaSライセンスの約30%が「未使用またはほとんど使われていない」状態です。月額数万円のツールであっても、複数の重複契約が存在すれば年間で数百万円規模の無駄が生じます。退職した従業員のアカウントが解約されずに課金が続く「ゾンビID」問題は、シャドーITと組み合わさることでさらに複雑化します。情シスが把握していないツールは解約の検討対象にすら上がらないためです。
情報漏洩が発生した場合のコストはより深刻です。個人情報保護委員会から措置命令が発出された場合、違反内容によっては1億円を超える課徴金が科される可能性があります。民事上の損害賠償においては、漏洩した個人情報1件あたりの賠償金は判例上3,000円〜5,000円が相場です。漏洩件数が数万件に達すれば、総額は数億円規模に達します。
参考:個人情報漏洩による損害賠償の相場 | 日本通信ネットワーク
インシデントが発生した際に情シスが担う作業の量は膨大です。原因特定・被害範囲の確定・再発防止策の立案・監督官庁への報告をすべて短期間でこなさなければなりません。シャドーITが絡む場合、「どのツールを経由してどのデータが漏洩したか」を突き止める段階から多大な工数が発生します。管理していないツールは証跡も残りにくく、調査期間が長引くほどコストは膨らみます。
平時の管理コストも侮れません。情シスが把握していないツールへの問い合わせがヘルプデスクに届いても適切に対応できず、従業員の生産性低下・業務停止・IT担当者への問い合わせ急増という悪循環が生まれます。人員が限られている中堅企業では、このオーバーヘッドが直接的な人件費の増加として跳ね返ります。
情報漏洩が公になれば、企業の社会的信用は着実に損なわれます。株式公開企業では株価下落のリスクがあり、BtoB企業では既存顧客の解約や新規受注の失注が続くケースがあります。
このブランド毀損コストは財務諸表に直接現れにくいですが、中長期の業績に確実に影響します。情報漏洩後に顧客が離反するリスクは数年単位で継続するとされており、社内の採用力にも悪影響が出ることがあります。こうした無形のコストまで含めると、シャドーITが引き起こす損失の全体像はさらに大きくなります。
抽象的な説明では感覚が掴みにくいため、従業員500名規模の企業を想定した損失の試算を示します。
これらを合算すると、500名規模の企業でも年間数百万円単位の無駄コストが生じています。これはあくまで「把握できているコスト」の話であり、未検知のシャドーITを含めればさらに膨らむのが実態です。
IBMの2025年データ侵害コストレポートによると、グローバルにおけるデータ侵害の平均コストは1件あたり444万ドル(約6億5,000万円)です。さらに、シャドーAIを含むシャドーITに起因する侵害は、通常の侵害より平均67万ドル(約1億円)高いコストがかかることが報告されています。これは検知が遅れやすいこと(平均247日 vs 241日)、被害範囲が広がりやすいこと、証跡が残りにくいことに起因しています。
日本企業では規模に応じてコストは異なりますが、インシデント対応に必要な調査費用・システム復旧費用・通知コスト・広報対応費用を合計すると、中規模企業でも数千万円から数億円の損失が現実的な水準として存在します。
参考:IBM 2025 Cost of a Data Breach Report | IBM
シャドーITの調査・整理作業は、担当者1名あたり月に数十時間を消費することがあります。時給換算すると、年間で数十万円〜百万円超の機会コストが情シス担当者に生じています。この工数を戦略的IT投資(セキュリティ強化・DX推進・業務効率化)に充てられれば、企業全体のリターンははるかに大きくなるはずです。
シャドーITのコストがなかなか減らない背景には、3つの構造的な原因があります。個々の従業員の問題ではなく、組織とIT環境の仕組み的な問題です。
SaaSはクレジットカード1枚で即日利用開始できます。「便利そうなツールを試してみたい」と感じた従業員が、情シスへの申請なしに個人契約を結ぶ障壁はほとんどありません。2010年代前半までオンプレミスのソフトウェアが主流だった頃は、IT部門を介さない導入が事実上不可能でした。クラウド化の進展がその前提を崩し、調達の民主化と引き換えにガバナンスの空白を生み出しました。
シャドーITが発生する大きな要因は、申請プロセスの複雑さと承認リードタイムの長さです。「情シスに申請してから使えるようになるまでに2週間かかる」という環境では、急ぎの業務に対応できない現場は待てずに個人契約に走ります。正規ルートが機能不全を起こしていることが、シャドーITを生む土壌を作っています。ルールを厳格化するだけでは解決しません。現場のニーズに応える速度と利便性を情シス側が提供できるかどうかが問われています。
シャドーITのコスト問題の核心は「見えないこと」にあります。管理ツールがなければ情シスは組織内でどのサービスが使われているかを把握できず、コスト管理も不可能です。把握できていないものはコントロールできないため、問題は放置され続け、気づいた時にはコストが相当な規模に積み上がっています。
シャドーITが引き金となった情報漏洩事例を見ると、コストの深刻さが具体的に見えてきます。
2021年8月、国内のある大学病院で患者約270名分の個人情報が漏洩しました。情シスの許可なく個人で使用していたクラウドサービスに患者情報を保存していた医師のIDとパスワードが、フィッシング詐欺によって窃取されたことが原因です。医療情報という高い秘匿性を持つデータの漏洩は、患者・院内スタッフ・地域社会への影響が広く、信頼回復のための対応コストが長期にわたって発生しました。
2018年、静岡県島田市農林課の職員が業務で禁止されていたフリーメールを使って個人情報を含むファイルを共有していたことが判明し、2,446件の個人情報が外部に漏洩しました。公的機関での事案だったため、行政・住民双方への対応コストが発生し、職員教育の全面見直しも余儀なくされました。シャドーITの問題は民間企業だけの話ではありません。
承認外のストレージサービスや通信アプリを使って業務データが外部に持ち出される事案は、製造業・金融・医療を問わず継続的に発生しています。シャドーITが存在することで内部不正の証跡が残りにくくなり、インシデント発生後の原因調査コストが大幅に膨らみます。デジタルフォレンジック(証跡調査)だけで数百万円規模の費用が発生するケースもあります。
参考:シャドーITによる情報漏洩事例や対策方法を紹介 | トレンドマイクロ
コストを抑制するには、ツールと運用の両面から手を打つ必要があります。実務で機能する5つの対策を順番に紹介します。
最初に着手すべきは現状把握です。社内で利用されているすべてのSaaSを洗い出し、正規承認済みのものとシャドーITに分類します。棚卸しは、経費精算データ・クレジットカード明細・ネットワークログを組み合わせて実施するのが現実的な方法です。
棚卸しによって重複契約・未使用ライセンス・退職者の残留アカウントを発見するだけで、即座にコスト削減につながるケースが多くあります。「まず現状を知る」という一歩が、その後の対策すべての基盤になります。
関連記事:SaaS棚卸しの進め方と注意点
シャドーITを減らすには、現場が正規ルートで申請しやすい環境を整えることが先決です。承認フローが煩雑であれば、従業員は迂回しようとします。申請から承認までのリードタイムを短縮し、申請フォームをシンプルにするだけで、シャドーITの発生率を大幅に下げられます。
同時に、「なぜ申請が必要か」という背景を従業員に丁寧に伝えることも重要です。ルールを押しつけるだけでなく、セキュリティリスクや組織への損失を具体的に説明することで、自発的な協力が得やすくなります。
手作業でのSaaS管理には明確な限界があります。SaaS管理プラットフォーム(SMP)を導入することで、社内で利用されているSaaSを自動検出・可視化し、ライセンス状況・利用状況・コストをリアルタイムで把握できるようになります。
Josysのようなプラットフォームでは、SaaSの契約情報と従業員の入退社情報を連携させることで、退職者アカウントの自動削除・ライセンスの最適配分・コスト分析レポートの自動生成が実現します。情シスが手動でこなしていた作業を自動化することで、管理工数を大幅に圧縮できます。
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CASB(Cloud Access Security Broker)は、社内ネットワークとクラウドサービスの間に位置し、承認外のサービスへのアクセスを検出・制御するセキュリティソリューションです。情シスが把握していないサービスの利用をリアルタイムで検知できるため、シャドーITの発見と対処が格段に速くなります。
CASBの導入により調査工数が削減され、インシデント発生時の対応コスト抑制にも直結します。ただし、CASBはシャドーITを「見つける」ツールであり、発見後のアカウント管理・コスト最適化にはSMP(SaaS管理プラットフォーム)との組み合わせが有効です。
参考:テレワークで増大するシャドーITのリスク。CASBの活用でSaaS管理 | CyberNet
技術的対策と並行して、従業員への教育は欠かせません。シャドーITのリスクを「自分事」として理解してもらうために、具体的な事例を用いた研修を定期的に実施することが効果的です。
ポリシーを文書化し、入社時のオリエンテーションや年次研修に組み込むことで、シャドーIT発生の抑止力になります。「知らなかった」という状態をなくすことが、コスト管理の第一歩です。禁止事項を列挙するだけでなく、「代わりに使える正規ツール」を提示することで、現場の納得感が増します。
関連記事:情報セキュリティポリシーの作り方
対策を実行に移す際には、優先順位と進め方が重要です。すべてを一度に着手しようとすると推進力が分散するため、段階的に進めることを推奨します。
最初の1〜2か月は現状把握に集中します。経費精算データ・クレジットカード明細・ネットワークログを収集し、社内で使われているSaaS・ツール・デバイスをリスト化します。この段階で、すでに廃止すべき重複契約や未使用ライセンスが見えてくるはずです。
把握したSaaSを「公式承認済み」「グレーゾーン(黙認)」「未承認シャドーIT」の3区分に分類すると、次のアクションが明確になります。グレーゾーンについては、利用実態と業務必要性を確認した上で、承認に移行するか禁止するかを判断します。
現状把握が完了したら、即効性のあるコスト削減に着手します。重複契約の統廃合・退職者アカウントの削除・利用実態のないライセンスの解約が優先アクションです。これらを実行するだけで、多くの企業では月額数十万円単位のコスト削減が実現します。削減効果を数値化して経営層に共有することで、次のガバナンス投資への理解も得やすくなります。
コスト削減と並行して、再発防止のためのガバナンス体制を構築します。SaaS申請フローの整備・SMP導入・社内ポリシーの更新・従業員教育の実施をこの期間に集中して進めます。管理ツールを導入することで、以降は継続的な自動監視が可能になり、情シスの運用負担が大幅に減ります。
ガバナンス体制が整ったあとは、定期的なSaaS棚卸し(四半期または半期ごと)・コスト分析レポートのレビュー・ポリシーの更新サイクルを回し続けます。新しいSaaSが次々と登場するクラウド時代において、「一度整えたら終わり」という発想は通用しません。継続的な管理サイクルが、コストコントロールの実効性を維持する鍵です。
Josysでは管理サイクルの自動化を支援しています。詳しい機能はデモでご確認ください:無料デモを予約する
シャドーITのコスト問題でよくある質問
従業員50名規模でも十分に起こります。むしろ小規模な組織では情シスの専任担当者がいないケースが多く、把握できていないSaaSが多い傾向があります。規模が小さいほど1件のインシデントが企業全体に与えるダメージは相対的に大きくなるため、早期の対策が重要です。
少なくとも年2回(半期ごと)の実施を推奨します。新しいSaaSは常に登場するため、一度棚卸しをしても数か月後には新たなシャドーITが生まれている可能性があります。SaaS管理プラットフォームを導入すれば、リアルタイムで継続的な監視が実現し、定期棚卸しの作業負担を大幅に軽減できます。
技術的な完全排除は難しい面がありますが、リスクを許容可能な水準に管理することは十分に可能です。現場のニーズに応える正規ツールの整備・申請プロセスの効率化・継続的なモニタリングを組み合わせることで、シャドーITの発生率とコストリスクを大幅に低減できます。
管理ツールなしで手作業の場合、棚卸し〜対処まで数週間〜数か月かかることがあります。SaaS管理プラットフォームを活用すると、シャドーIT検出は自動化され、発見から対処の判断までを大幅に短縮できます。
自社の状況によって異なりますが、SaaS棚卸しを初めて実施した企業では、月額SaaS支出の20〜30%削減を達成するケースが報告されています。重複契約・未使用ライセンス・ゾンビIDの解消だけでも、中規模企業では年間数百万円の削減が見込めます。さらに、インシデントの未然防止という観点では、発生した場合の損失(数千万〜数億円)を回避できるため、コスト削減効果の総合値は表面的な数字を大きく上回ります。
Josysは、ITデバイスとSaaSを一元管理するクラウドプラットフォームです。シャドーITのコスト問題に対して、複数のアプローチで支援します。
Josysは社内で利用されているSaaSを自動的に検出し、契約状況・ライセンス数・利用者・月額コストを一覧で可視化します。情シスが手動で棚卸しをする手間を省き、リアルタイムで最新の利用状況を常に把握できる状態を維持します。
従業員の入社・異動・退社イベントに連動して、SaaSアカウントの発行・変更・削除を自動化します。退職者のゾンビIDによる無駄なライセンス費用を根本から排除し、セキュリティリスクの低減とコスト最適化を同時に実現します。管理ツールがなければ見落とされがちなこの作業を、Josysが自動でカバーします。
SaaSコストの部門別・ツール別の分析レポートを自動生成します。予算管理担当者や経営層への報告資料として活用でき、コスト最適化の意思決定をデータで後押しします。「なぜこのツールの契約が必要か」を数字で説明できる状態が、IT投資の説得力を高めます。
未承認で使用されているSaaSを検出し、情シスへのアラートを出す機能を備えています。発見したシャドーITを「承認」「禁止」「要検討」に即座に分類してガバナンス管理を進められるため、対応工数が大幅に減ります。
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シャドーITが企業にもたらすコストは、情報漏洩による損害賠償・罰金にとどまりません。ライセンスの重複・未使用ライセンス・退職者アカウントによる余分な支出、インシデント対応に費やす人件費と工数、さらにはブランド毀損という長期損失まで、複数の層にわたってコストが積み重なります。
IBMのレポートが示すように、シャドーITに起因するインシデントは通常より約1億円高いコストを生み出します。日本においても、1件の情報漏洩が企業経営に与える影響は決して小さくありません。
対策の起点は「現状を見える化すること」です。どのSaaSが使われているかを把握して初めて、重複排除・ライセンス最適化・ガバナンス構築のアクションが動き始めます。SaaS管理プラットフォームの活用は、情シスがシャドーITのコストを継続的にコントロールするための最も効率的な手段です。
シャドーITによるコストに課題を感じている方は、まず自社のSaaS利用状況の棚卸しから着手することをお勧めします。Josysを使えば、その作業を大幅に効率化できます。
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