
情報システム部門(以下、情シス)の業務量は、ここ数年で大きく膨らんでいます。テレワーク定着によるリモート対応の増加、SaaSの乱立に伴う管理対象の拡大、セキュリティ要件の厳格化——これらが重なり、少人数の情シス部門が抱える負荷は限界に近づいています。
こうした状況を打開する手段として、IT運用の自動化が注目されています。本記事では、情シス担当者・IT部門マネージャーを対象に、自動化できる業務領域・活用できるツールの種類・実践的な導入ステップを体系的に解説します。これから自動化を検討している方から、すでに一部着手している方まで、実務に直接役立てていただける内容を目指しています。
IT運用の自動化とは、情シスが日常的に行う定型業務をシステムやツールに委ね、人手による作業を減らす取り組みです。アカウントの発行・削除、デバイスの配布・回収記録、申請ワークフローの処理など、ルールに基づいて繰り返し発生する業務が主な対象となります。
自動化は「完全無人化」を意味するわけではありません。人間が判断すべき例外対応や承認ステップは残しつつ、定型処理をシステムに任せることで、情シスが付加価値の高い業務に集中できる環境を整えることが目的です。
情シスが抱える課題を整理すると、自動化の必要性が具体的に見えてきます。
SaaSの増加による管理対象の膨張
中堅企業でも導入しているSaaSが50〜100本を超えるケースが増えています。それぞれのSaaSでアカウント管理が発生するため、手作業での対応は現実的ではありません。
入退社・異動対応の頻発化
採用活動の活発化や組織変更により、アカウントの発行・権限変更・削除が頻繁に発生します。対応漏れが起きるとセキュリティリスクに直結するため、確実かつ迅速な処理が求められます。
少人数体制での多業務対応
中堅・中小企業の情シスは1〜3名体制が多く、ヘルプデスク対応と戦略的なIT企画の両方を担う必要があります。繰り返し業務を自動化しなければ、慢性的なリソース不足は改善しません。
監査・コンプライアンス対応の強化
個人情報保護法の改正やISMS認証の取得・維持に伴い、アクセス権の棚卸しや証跡管理が必要になっています。手作業では対応コストが高く、記録のミスも起きやすいのが実情です。
アカウント管理は、情シスが最も時間を取られる業務の一つです。入社者への各種SaaSアカウント発行、退社者のアカウント即時無効化、組織変更に伴う権限変更——これらを人事システムと連携して自動化することで、対応漏れとセキュリティリスクを同時に解消できます。
具体的に自動化できる内容は以下のとおりです。
アカウント管理を自動化した企業では、入社対応にかかる時間が1件あたり数時間から数十分に短縮されたケースが報告されています。退社者アカウントの失効漏れというセキュリティリスクを構造的に排除できる点も、導入効果として大きいといえます。
Josysの資料をダウンロードして、アカウント管理自動化の全体像を確認する
デバイス管理においても、手作業によるExcel台帳管理は限界を迎えています。PC・スマートフォン・タブレットの割り当て状況、修理・廃棄の履歴、ライセンスの有効期限——これらを一元管理し、定期的な棚卸しを自動化することが求められます。
自動化できる主な内容は以下のとおりです。
棚卸し業務を自動化することで、四半期ごとに数日かかっていた確認作業が大幅に短縮された事例があります。IT資産の現状を常に最新状態で把握できるため、ライセンスの重複契約や紛失端末の早期発見にも繋がります。
ソフトウェア導入申請、アクセス権変更申請、デバイス発注申請——情シスへの申請業務は多岐にわたります。これらをメールや口頭でやり取りしていると、申請内容の記録が残らず、承認の抜け漏れも発生しやすくなります。
ワークフロー自動化では、以下のような仕組みを構築できます。
申請ワークフローをシステム化することで、情シス担当者がメールを確認してから手動でアカウント発行するという二重作業がなくなります。処理スピードと正確性が同時に向上し、担当者の負担も軽減します。
パスワードリセット、VPN設定の案内、ソフトウェアのインストール手順——情シスへの問い合わせには、定型の回答で対応できるものが多く含まれています。これらをFAQサイトやチャットボットで自動対応することで、担当者の一次対応負荷を大幅に削減できます。
ヘルプデスクの一次解決率を高めることで、情シス担当者は複雑な問い合わせや戦略的な業務に集中できるようになります。
アクセスログの定期確認、不審なログインの検知、ライセンス利用状況のレポート生成——セキュリティ・コンプライアンス関連の業務も、自動化によって大きく効率化できます。
コンプライアンス対応は、証跡をいかに自動で蓄積するかがポイントです。手作業でログを収集しているうちは、監査対応のたびに大きな工数が発生し続けます。
RPAは、人間がPCで行う操作をロボットが代わりに実行するツールです。Excelへのデータ入力、Webブラウザの操作、メール送受信など、複数のアプリケーションを跨いだ定型作業の自動化に向いています。
情シス業務での活用シーンとしては、複数システムへのデータ転記、定期レポートの自動生成、台帳更新などが代表的です。ただし、RPAは画面UIに依存するため、対象システムのアップデートによって動作が止まるリスクがあります。保守コストを見込んだ上で導入を判断してください。
代表的なツール: UiPath、Power Automate(RPA機能)、BizRobo!
iPaaSは、複数のSaaSやクラウドサービスをAPIで繋ぎ、データの受け渡しや処理を自動化するサービスです。RPAと異なりAPIベースで連携するため安定性が高く、クラウドSaaS同士の連携に適しています。
例えば、人事システムに新規入社者が登録されたタイミングで、Google WorkspaceとSlackとSalesforceに自動でアカウントを発行する——といった複数サービスを跨ぐ自動化が実現できます。
代表的なツール: Zapier、Make(旧Integromat)、Workato、Microsoft Power Automate
複数のSaaSを横断的に管理するために特化したツールです。SaaSの利用状況可視化、アカウントの一元管理、コスト最適化、入退社対応の自動化といった機能を持ちます。
IT資産管理ツールは、PCやデバイスの台帳管理・ライセンス管理・棚卸し管理に特化しています。SaaS管理とデバイス管理を統合したツールを選ぶことで、情シスの管理対象を一元化できます。
Josysは、SaaSアカウント管理とITデバイス管理を一つのプラットフォームで実現するツールです。入退社時のアカウント発行・停止を自動化し、デバイスの配布・回収・棚卸しもシステム上で管理できます。人事システムとの連携により、IT運用の大部分を自動化することが可能です。
IdPは、ユーザーのIDを一元管理し、各SaaSへのアクセス権を制御するシステムです。SCIMプロビジョニングに対応したSaaSとIdPを連携させることで、アカウントの自動発行・削除が実現します。
代表的なツール: Okta、Microsoft Entra ID(旧Azure AD)、Google Workspace
プログラミングの知識がなくても業務フローを自動化できるツールです。申請フォームの作成から承認ルーティングまでを視覚的に設計できるため、情シス担当者が自身で自動化を構築・改善しやすいのが特徴です。
代表的なツール: kintone、Microsoft Power Platform、Airtable
自動化を進める前に、まず現状の業務を可視化することが不可欠です。情シス担当者が日常的に行っている業務をすべてリストアップし、以下の観点で評価します。
この評価により、自動化の優先順位が明確になります。発生頻度が高く、定型化しやすく、ミスの影響が大きい業務から着手するのが基本の考え方です。
業務棚卸しは担当者だけでなく、チーム全体で実施することが重要です。属人化している業務は本人も気づいていないことが多く、ヒアリングを通じて初めて全体像が見えるケースがあります。
棚卸し結果をもとに、自動化する業務を選定します。選定基準として広く使われるのが、縦軸に「業務の発生頻度」、横軸に「定型化のしやすさ」を置いたマトリクスです。右上(高頻度・高定型)の業務から優先的に自動化します。
情シス業務の中で、特に自動化効果が高いのは以下の業務です。
一方で、例外対応が多い業務やステークホルダーとの調整が必要な業務は、自動化の前に業務プロセス自体を整理する必要があります。
自動化対象業務が決まったら、適切なツールを選定します。確認すべきポイントは以下のとおりです。
ツールを選定したら、まず1〜2業務を対象に概念実証(PoC)を行います。本番環境への影響を最小化しながら自動化の効果を検証し、問題点を早期に発見・修正してください。
PoCで効果が確認できたら、本番環境への導入に移ります。この段階で重要なのは、自動化のルールを明文化することです。
自動化した後も放置は禁物です。対象システムのアップデートや組織変更により、自動化ルールの見直しが必要になるケースがあります。定期的な棚卸しと改善サイクルを仕組みとして組み込んでください。
導入後は、自動化による効果を定量的に測定します。代表的な指標は以下のとおりです。
効果が確認できた業務については、他の部署や別業務への横展開を検討します。自動化の成功事例を社内で共有することで、IT部門と業務部門の協力体制も構築しやすくなります。
「とりあえず自動化すれば解決する」という発想で着手すると、非効率なプロセスをそのまま自動化してしまいます。自動化の前に業務フローを見直し、不要なステップを削除・統合してから着手することが重要です。
情シスが主導して自動化を進めても、実際に業務を行う現場部門の協力がなければ定着しません。申請フローの変更や新しいツールの利用方法について、事前に十分な説明と合意形成を行いましょう。
特にRPAは、対象システムのUI変更によって動作が止まるリスクがあります。「導入したら終わり」という前提ではなく、継続的な保守コストを見込んだ上で投資対効果を判断してください。
自動化の範囲を広げすぎると、問題が発生したときの影響範囲も大きくなります。小さく始めて成功体験を積み、段階的に拡大するアプローチが現実的です。
Josysは、SaaSアカウント管理とITデバイス管理を統合したプラットフォームです。情シスが最も時間を取られているアカウント管理と棚卸し業務を、一つのシステムで自動化できます。
人事システムと連携し、入社時のアカウント発行から退社時の一括停止まで自動実行します。複数のSaaSに対して手作業で操作する必要がなくなるため、担当者の工数を大幅に削減できます。
どの部署がどのSaaSを何ライセンス使っているかをリアルタイムで把握できます。未使用ライセンスの検出によるコスト最適化にも活用できます。
PC・スマートフォン・タブレットの割り当て状況を自動で記録・更新します。棚卸し作業の工数を大幅に削減し、紛失端末の早期発見にも役立ちます。
定期棚卸しのタイミングで担当者へ自動通知し、回答状況をダッシュボードで一元管理します。紙やメールでのやり取りをなくし、回答漏れを防ぎます。
ある企業では、Josys導入により入退社時のIT対応にかかる工数を3割削減しました。アカウント発行・停止作業が自動化されたことで、情シス担当者が戦略的な業務に充てる時間が確保できるようになっています。人事システムとの連携設定から運用開始まで、専任のカスタマーサクセスが伴走するため、IT部門のリソースが限られた企業でも導入しやすい体制を整えています。
2026年以降、IT運用自動化は「ルールベースの自動化」から「AIが判断して実行する自動化」へと進化が加速しています。AIエージェントは複数のシステムを跨いで複雑なワークフローを自律的に実行できるため、情シスの役割を根本から変える可能性があります。
例えば、「新入社員のIT環境セットアップ」という指示だけで、AIがアカウント発行・デバイス手配・研修ツールへの登録まで一連の作業を実行するような仕組みが実用化されつつあります。
大企業を中心に、開発者や社員がセルフサービスでITリソースを利用できる「内部開発者プラットフォーム(IDP)」の構築が進んでいます。情シスがインフラを整備し、現場がセルフサービスで必要なリソースを調達できる体制が整うと、問い合わせ対応の工数がさらに削減されます。
IT運用の自動化とゼロトラストセキュリティの統合が進んでいます。アクセス権の付与・変更・削除を自動化する際に、ゼロトラストの原則(最小権限・継続的検証)を組み込むことで、利便性とセキュリティを両立した運用が実現できます。
IT運用の自動化は、工数削減にとどまらず、情シス部門全体の質を変える取り組みです。繰り返し業務から解放されることで、セキュリティ強化・DX推進・業務改善提案といった、より付加価値の高い業務に集中できるようになります。
自動化を進める際の要点を整理します。
自動化は一度完成したら終わりではありません。業務の変化に合わせて継続的に改善していく姿勢が、長期的な効果を生み出します。
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